ドイツはヨーロッパ圏において、一番時間にしっかりとしたイメージがあるかと思いますが、ドイツ鉄道(ドイチェ・バーン、略してDB)の長距離列車は、2020年だと実に5本に1本が遅延しています。
イギリス人が天気について良く話をするなら、ドイツ人は鉄道について良く話をします。電車が遅れて、いかに大変だったか、迷惑だったか、という事で皆マウントを取るのが好きだと思います。
ドイツ移住者に関しては、ドイツ鉄道による不利益を被って、ようやくドイツ生活も一人前だみたいに思われる節があったりなかったり…
日本の新幹線に乗る感覚でいると、えらい目に遭う可能性があります。
この記事では、ドイツ鉄道を使うに際し、わりと頻繁に起こる遅延やキャンセル時の、返金手続きなど知っておきたい情報をまとめてみました。
詳細は後述しますが、鉄道の遅延やキャンセル時の返金に関しては、ドイツだけはなくヨーロッパ各国でも、同じ法律が適用されます。
ドイツ鉄道とは
国営で毎年20億人が乗車する、ヨーロッパでも最大規模の鉄道運営会社です。従業員数は世界130カ国以上で338千人程度、ドイツ国内でみても211千人程度います。
白と赤のロゴがトレードマークで、鉄道という名がついていますが、バスも運営しています。
鉄道事業に関しては、貨物も取り扱っていますが、旅客列車は2つに分けられます。
Long-Distance(長距離列車)
Long-Distance(長距離列車)は、ICE(Intercity-Express=ドイツ国内の都市間を走る新幹線のようなもの)、IC(Intercity、特急列車)やEC(Eurocityと呼ばれる、国際特急列車)と呼ばれている種類です。後ほど説明しますが、遅延がひどいのは、この長距離列車です。
Regional(普通列車)
Regional(普通列車)は、IRE(Interregio-Express)、RE(Regional-Express)、RB(Regionalbahn)、S-Bahnと呼ばれている種類です。昇順で止まる駅が少ないです。
遅延の定義
ドイツ鉄道では、到着予定時間より6分以上遅れた場合、遅延と定義しています。
因みに、東海旅客鉄道のアニュアルレポート2020年版によると、 東海道新幹線の2019年度平均遅延時間の実績値は、0.2分との事です(自然災害等による遅延も含む)。
なんと、ドイツ鉄道基準ならば、東海道新幹線の定時運航率は100%となります。
鉄道でも飛行機でもバスでも、日本の乗り物の定時運航率は、世界的に見ても異常な程高すぎるので、現場で働いている方には、頭があがりません。
実際の遅延率
2015年以降の遅延率です。ドイツ国内を走る列車の数値です。
2020年のドイツ長距離列車ですが、81.8%が6分以上目的地に遅れて到着しています。約5本に1本が遅れる、というハイペースぶりです!
遅延率 | Long-Distance (長距離列車) | Regional (普通列車) |
---|---|---|
2020年 | 18.2% | 4.4% |
2019年 | 24.1% | 5.7% |
2018年 | 25.1% | 6.0% |
2017年 | 21.5% | 5.6% |
2016年 | 21.1% | 5.2% |
2015年 | 25.6% | 5.8% |
目標値 | 15.0% | 5.0% |
ソース元は、ドイツ鉄道公式サイトです。
前年対比で2020年が飛躍的に改善した理由は、コロナ禍での移動制限等により、運航本数が減ったのに加え、より少ない人数が鉄道を使用した事などが挙げられます。
長距離列車の遅延率の目標値が、15%(6-7本に、1本が遅延)となっており、目標値がそもそも低い…ですね。
わたしの経験上ですと、遅延は日常茶飯事で、予定通り到着すると、なんだか特した気分にすらなります。
返金されるのは、60分以上の遅延
ドイツ鉄道のみならず、EU圏なら原則同じ法律
鉄道の遅延やキャンセル時の返金に関して、ドイツ鉄道のみならず、EU圏なら原則同じ法律が適用されます。
2009年12月3日から施行した根拠法です、(EC)1371/2007。
原則、EU圏なら同じ法律が適用というのは、各国で例外規定(最長、2024年までの見込み)を設けている場合があるからです。
今回ドイツ鉄道の場合をなんとなく覚えておけば、ドイツ以外のヨーロッパの国々で応用が利くかと思います!
60分以上遅延した場合
目的地に到着予定時間より1時間以上の遅延で、乗客はまず、以下2つの選択肢が与えられます。
- 未使用のチケット全額払戻し
- 旅程の継続、或いは同等の輸送手段の提供を受ける
チケットの払戻しを受けずに、旅程を継続した場合、遅延した時間に応じて支払いをした金額に対する返金率が決まります。
遅延時間 | チケット返金率 |
---|---|
60分以上 | 25% |
120分以上 | 50% |
キャンセル | 100% |
以外と知られていないのですが、出発地・到着地に関わらず、遅延が60分以上発生した場合、乗客は以下の権利を有します。
- 合理的な範囲で、飲食物の提供
- 遅延状況や、予定出発・到着時間の逐次更新
- 宿泊を伴う遅延の場合、宿泊場所の提供
- 車両が何かしらの理由で、身動きがとれない場合、乗客を新たな出発地まで送り届ける
実際の返金手続き
ドイツ鉄道での遅延やキャンセルでは、3通りの返金手続きがあります。
2021年5月31日までは、(飛行機の場合のように)返金手続きがオンライン上で完結しないので、ドイツ在住者以外であれば、実質駅の窓口で対応するしかありませんでした。
- DBトラベルセンター(駅の窓口)
- 郵送
- オンライン
Fahrgastrechte online einreichen
引用元リンク:https://www.bahn.de/p/view/service/auskunft/fahrgastrechte/entschaedigung.shtml
Ab 1. Juni 2021 können Sie Ihre Fahrgastrechte auch online auf bahn.de oder in der App DB Navigator über Ihr Kundenkonto geltend machen. Dazu muss die Fahrkarte für die Reise, für die Sie Ihre Ansprüche einreichen wollen, über dieses Kundenkonto gekauft worden sein bzw. im Kundenkonto hinterlegt sein (z.B. bei einer BahnCard 100).
駅の窓口でも、郵送でも必要なものは同じで、3点あります。
- 申請書(Passenger Rights Claim Form)
- 遅延証明(乗務員や、DBトラベルセンターにて対応可)
- 返金時は、オリジナルチケット。払戻時(未使用のチケット等)は、オリジナルレシート
全ての必要書類が揃えば、DBトラベルセンターで即、返金されます。それ以外の場合は、後日振込みされるので、連絡先は当然、口座番号も申請書に明記しておきましょう。
返金手続きの説明でしたが、希望であれば現金ではなく、次回以降の支払いに使えるバウチャーで補償を受ける事も可能です。
オンラインではまだ手続きをした事が無いのですが、次回遅延に遭遇した場合は、記事を更新したいと思います!
遅延が多い理由
ドイツ鉄道の遅延が多い理由はいくつかあると思いますが、よく言われているのが以下です。
線路の幅(軌間)
ドイツでは新幹線などの長距離線と、普通列車などの在来線の線路幅(軌間)が同じです。
軌間に関しては、ドイツ独自というよりヨーロッパ内では、標準軌1,435mmにスペインを除いてほぼ統一されています。事実上、イギリス発祥である鉄道に倣ったと言われていますね。
またEU内は、通貨をはじめ様々な物事の統一化を目指しており、鉄道に関する法律もEU規則2012/34/EU(元々は91/440/EEC)で諸々定められています。
なので、ドイツ国内には無数のハブが儲けられており、どこかで接続が躓くと、他の路線に影響が出やすくなります。
ゆえに鉄道ながら交通渋滞がおき、まさに空港ハブに例えられたりします。
運航本数
運航本数が以前に比べて増加傾向にあるのも、定時運航率が下がっている理由の一つと言われています。
1994年1月1日にドイツ憲法を修正、100を超える法改正を経て鉄道改革が行われ、ドイツ鉄道が誕生しました。2社統合のほか、様々な改革案が盛り込まれました。
鉄道改革の一環で、ドイツ鉄道路線の総延長距離が1994年の約40,000kmから、2019年で約33,000kmに縮小されています。それでもヨーロッパ最長記録です、次いでフランスが約30,000km弱で、ポーランドが約20,000km弱と続きます。
一方でkmあたり乗客数(Pkm)は増加傾向にあります。1994年に650億人程度だったのが、2019年には980億人程度になっています。
経営の視点では効率化が進んでいますが、当然従業員一人あたりの仕事量は増える事を意味します。
従業員数は1994年で331千人程度、その後絞り込まれたのですが、2019年末では338千人程度と微増です。
設備投資
設備が古く、メンテナンスが必要と長らく言われているものの、十分な設備投資がなされていないとの指摘です。
また所謂Schwarze Null(=Black Zero)と言われる、ドイツの財政均衡政策が背景にあるとも。国民の借金を増やさないよう、国営のドイツ鉄道でも当然収益化圧力があるのも事実です。
倹約で知られるドイツの国民性、実際に住んでみて感じたのは、意外とアナログ社会という事です。
インターネット高速回線の普及率や速度が先進国なのにイマイチだったり、現金決済率が異常に高い、紙文化が根強く残っている等です。
積極的な設備投資やIT化が、鉄道事業においてあまり進んでいないというのは、もしかしたらドイツの国民性と深く関連があるのかも分かりませんね。
遅延情報の確認方法
公式サイトに加え、AppのDB Navigator(DBナビゲーター)がおすすめです。
当日は、Appもそうですが、稀にタイムリーな反映がなされない時があるので、窓口や駅員さんに確認するのが間違い無いです。
昔スマホが無い時代で、ドイツ語が全く分からない時に、長距離列車をホームで待っていたら、向かいのホームに、自分が乗るべき列車が停車したのには焦りました。
DBナビゲーターをスマホにインストールしておけば、運航情報検索から予約、支払い、Eチケット入手まで全てアプリ上で完結するので、かなりおすすめです。
長距離線だけでなく、普通列車、また地方ごとに運営されている地下鉄やバス等も、アプリ内で切り替え操作可能なので重宝します。
最後に
ドイツで長距離列車を使って移動する場合、出張や観光でも、かなり時間に余裕を持って行動する必要があります。
なんといっても、5本に1本が遅延しますからね。
現行のEU規則に係る改革案では、鉄道の搭乗者は、60分の遅延でチケット代金の50%を、120分以上の遅延でチケット代金の全額を返金する方向です。
現時点で、例外適用が無い国は、ベルギー、デンマーク、イタリア、オランダ、スロベニアの5か国のみに留まっています。
改革案が施行され次第、EUとしては例外適用を設ける事無く、全てのメンバー国がEU規則通り運営する事を要請しています。
飛行機の遅延では、支払った金額以上の補償金を航空会社が支払う義務がありますが、鉄道に関しては流石にチケット代金を上限にと目論んでいるようです。
EU改革案に関しては、 一日も早く施行される事を強く望みます!
※本文は以上です。
もし記事を気に入っていただけたら、是非、SNS等でシェアいただけたらと思います!