私事ですが、ここドイツに来る前はイギリスに住んでいました。
ドイツに引越してきて、とにかく現金決済をする機会が、爆発的に増えた気がします。
そしてカードが使えるスーパー等でも、老若男女、わざわざ現金を使っているドイツ人を多く見かけます。
例えばイギリスでは、キャッシュレス先進国の一つとも言われ、一杯だけのコーヒーでも、現金で支払おうとすると、レジの人に驚かれる程です。
ストールと呼ばれる、路面店・屋台でも、カード決済端末があり、難なくカード支払いができてしまいます。
なので私がイギリスに住んでいた時は、ほとんど現金を持ち歩かなかったです。
そこで定性面だけでなく定量面で、一体イギリスやドイツがヨーロッパ諸国の中で、キャッシュレス決済比率がどのくらい進んでいる・遅れているのか、気になっていたので今回調べてみました。
キャッシュレス決済比率の定義
色々な比較方法があると思いますが、キャッシュレス決済比率について、ここでは簡略化すべく以下の算出式としています。
総カード支払額 ÷ 家計最終消費支出
分子の総カード支払額は、クレジットやデビットカードなど非現金による支出総額。
分母は、より実生活に近い数値になるので、国内総生産=GDP (Gross Domestic Product)ではなくて、家計最終消費支出(Household Final Consumption)を使用。
国内総生産=民間消費+民間投資+政府支出+(輸出−輸入)
GDP=C+I+G+(X−M)
家計最終消費支出は、GDPの内、民間消費(C)を構成する一つの要素です。
細かく分析しようとするとキリがないのと、ざっくりした数値を用いて、EU諸国を比較したいので、深追いはせず、すすみます。
分子・分母で使う数値は、ユーロスタット(Eurostat)がソース元です。
ご興味がある方は、のぞいてみてください。
Eurostat is the statistical office of the European Union situated in Luxembourg. Its mission is to provide high quality statistics for Europe.
引用元リンク: https://ec.europa.eu/eurostat/about/overview
抜粋記事の通り、ユーロスタットはルクセンブルクにある、EUの統計局です。
日本の場合、総務省統計局が日本のGDPを算出しています。
内閣府のサイトに、GDPに関するFAQがあります。
欧州各国のカード決済比率
それでは、さっそくEU27にイギリスを加えた、合計28か国を表にしてみます。
四捨五入など端数処理で、%差額は必ずしも、下記表の2014年と2018年差額分と合いません。
2014年 カード決済比率 | 2018年 カード決済比率 | %差額 | |
---|---|---|---|
ベルギー | 41% | 45% | 5% |
ブルガリア | 8% | 15% | 7% |
チェコ | 17% | 28% | 10% |
デンマーク | 48% | 56% | 8% |
ドイツ | 16% | 19% | 3% |
エストニア | 41% | 50% | 9% |
アイルランド | 31% | 54% | 23% |
ギリシャ | 5% | 16%* | 11% |
スペイン | 19% | 26% | 6% |
フランス | 39% | 46% | 7% |
クロアチア | 21% | 25% | 4% |
イタリア | 14% | 19% | 4% |
キプリス | 22% | 33% | 11% |
ラトビア | 26% | 32% | 5% |
リトアニア | 14% | 24% | 10% |
ルクセンブルグ | 41% | 54% | 13% |
ハンガリー | 16% | 30% | 14% |
マルタ | 23% | 36% | 12% |
オランダ | 37% | 43% | 6% |
オーストリア | 19% | 22% | 3% |
ポーランド | 15% | 26% | 10% |
ポルトガル | 52% | 61% | 10% |
ルーマニア | 8% | 14% | 6% |
スロベニア | 22% | 26% | 4% |
スロバキア | 32% | 23% | -8% |
フィンランド | 40% | 43% | 4% |
スウェーデン | 55% | 52% | -3% |
EU27平均 | 25% | 31% | 6% |
イギリス | 69% | 71% | 2% |
*ギリシャの決済比率ですが、ユーロスタット公式データ2018年度分が無い為、2017年の数値で代用しています。
欧州キャッシュレス先進国トップ&ワースト5
上記で算出した結果、キャッシュレス先進国トップ&ワースト5を、ソートします。
カード決済比率トップ5
順位 | 国 | 2018年 カード決済比率 |
---|---|---|
1位 | イギリス | 71% |
2位 | ポルトガル | 61% |
3位 | デンマーク | 56% |
4位 | ルクセンブルグ | 54% |
5位 | アイルランド | 54% |
イギリスが断トツでトップという結果でした。
EU27か国の平均値が、31%という事を鑑みると、イギリスは大分キャッシュレス化が進んでいると言えます。
なお6位から11位の間には、以下の国(降順)が、10%弱の幅に収まっています。
スウェーデン
エストニア
フランス
ベルギー
フィンランド
オランダ
カード決済比率ワースト5
順位 | 国 | 2018年 カード決済比率 |
---|---|---|
1位 | ルーマニア | 14% |
2位 | ブルガリア | 15% |
3位 | ギリシャ | 16% |
4位 | イタリア | 19% |
5位 | ドイツ | 19% |
一方のドイツはというと、見事にワースト5入り。
ドイツでは、2割弱がカード決済に過ぎず、その割合はEU27か国の平均値より12%低く、イギリスとの差は実に52%です。
スウェーデンやエストニアは
何かとキャッシュレス先進国、IT国家などと呼ばれる、スウェーデンとエストニアですが、本記事で行ったキャッシュレス決済比率の定義上は、トップ5圏外でした。
ですが上記の通り、スウェーデンは6位、エストニアは7位で、5位のアイルランドとは僅差でした。
最新2019年の統計は、まだリリースされていないのですが、順位が変わっているかもしれませんし、元データをどう取るかでも、結果が変わってくるかと思います。
なので、あくまでもヨーロッパ圏における、相対的な比較感として見て頂ければと思います。
スウェーデンの取組み
スウェーデンはSwish(スマホAppで使える、スウェーデンの非接触型決済システム。2012年にロンチし、爆発的にユーザーが増加中)が有名で、聞いたことがある人も多いと思います。
スウェーデンの中央銀行である、Sveriges Riksbankが2019年11月7日に出したレポートによると、国民の7割がSwishユーザーも、決済ボリュームで見ると、依然カードの方が多く使われているようです。
因みにスウェーデンでは、空港から市内に行く電車は、カードのみ受付可能で、現金は使えないですね。
何度か行きましたが、一回も現金を使わずに過ごせました。
また現金支払いを拒否する権利を、お店側が持っている位先進的です。現金大好きなドイツ人が聞いたら、発狂しそうです。
スウェーデン中銀とドイツ連銀は、キャッシュレス化の話題に関しては絶対に意見が合わなそう。
ヨーロッパでは一番早く、現金が完全になくなって全て電子化されるのでは、と言われているスウェーデンは、今後も注目です。
エストニアの取組み
エストニアは、なんといってもe-estoniaではないでしょうか。
ざっと挙げると、
- 投票はオンライン
- 国民の99%が電子IDを保有
- 国民の7割弱がIDカードを使用(して数々の電子化メリットを享受)
- 電子市民制度e-residency
- 99%の行政手続きがオンラインで完了
- X-road(エストニアの情報連携プラットフォーム)が対応するサービス数は、2,773にのぼる
- ICT 産業がGDPに占める割合: 7%
などがあり、エストニアがIT国家、電子国家といわれる理由が分かります。
端的にいうと、「結婚・離婚・不動産売買」以外は、全てオンラインで手続きが可能です。
2018年において、EU28か国でエストニアのGDP比率は、全体の0.2%に過ぎないのですが、バルト三国の一つが、ヨーロッパ圏で率先してICT(Information and Communication Technology)化しているのは、興味深いです。
2014年と2018年、比較コメント
ドイツは2014年のカード決済比率が16%でしたので、4年間で僅か3%しかキャッシュレス化が進んでいません…
むしろ、キャッシュレス後進国の代表として、ドイツは政府や連銀レベルでさえ、国民気質を反映してかキャッシュレス化に乗り気ではないですね。
イギリスも同期間で微増も、既に70%近くある数値を叩き出していたので、サプライズは無し。
突出してキャッシュレス化が進んだ国は、アイルランドで4年間で23%アップ。2014年はEU平均値以下だったのに、今では平均値を上回るまで成長し、トップ5位です。
アイルランドと言えば、プリペイドカードのRevolut(レボリュート)が西欧諸国をカバーするのに、同国で新たにライセンス取得を目論んでいると先日ニュースがありました。
ブレグジットでロンドンに変わる金融都市として、アイルランドは国として、キャッシュレス化(PayTech)やICT化に力を入れていますね。
アイルランド政府商務庁に、日本語で記載されたサイトがありますので、ご参考までに貼り付けておきます。
https://www.enterprise-ireland.or.jp/archives/67
反対に、カード決済比率がマイナス成長した国は、スロバキアのマイナス8%と、スウェーデンのマイナス3%。
スウェーデンはイギリス同様、2014年の時点で既に50%超を記録していたので、伸びしろが少ないという意味でノーサプライズ。
スロバキアは正直、良く分かりません。
最後に
改めて、数値化して比較した結果、やはりドイツは現金社会ですね。
ドイツといえば、EU内でGDP寄与率21%程度でトップなのに、キャッシュレス化に関しては、全く進んでいません。
今後、キャッシュレス化が進む気配すら全くありません!
むしろ、ここまで現金好きな、ドイツの国民性というのも面白いですよね。
高額紙幣である500ユーロが、2019年1月27を以て、新規で印刷されなくなりましたが、ドイツとオーストリアだけは最後まで抵抗し、3か月後の2019年4月27日まで期日を延期してもらっています。
On 27 January 2019, 17 of the 19 national central banks in the euro area stopped issuing €500 banknotes. In order to ensure a smooth transition and for logistical reasons, the Deutsche Bundesbank and the Oesterreichische Nationalbank stopped issuing the notes on 27 April 2019.
引用元リンク: https://www.ecb.europa.eu/euro/banknotes/html/index.en.html
欧州キャッシュレス決済事情についての記事でしたが、補足すると、ドイツではまだまだ紙社会です。
契約書にせよ、請求書にせよ、ドイツ人は紙が大好きです。今どき、オンライン上か、せめてメールにPDFでも添付してくれれば事足りると思うのですが。環境的にも電子化した方が、良い筈。
ドイツ人は紙好きという点も、現金の紙幣を好むというのと多少関係あるのかな。
また2020年1月からは、店舗でのレシート交付義務(Bon-Zwang)が適用されました。なので2020年に入ってから、キャッシュレスで買物をしても、レシートをわざわざ手交された人も多いかと思います。
背景には税金逃れを防ぐ意図があるのですが、ちょっと時代と逆行している感が否めません。。
ドイツのネット銀行N26とNorisbankについて、実際に使用して比較した記事を、別途投稿済みですが、Norisbankについては口座開設の段階で書面が多すぎて、ややうんざりでした。
キャッシュレス同様、ペーパーレス化も、ドイツで推進される事を強く願います!
※本文は以上です。
もし記事を気に入っていただけたら、是非、SNS等でシェアいただけたらと思います!