イギリスからドイツに引越しをした時、VAT(付加価値税)の違いが気になったのがきっかけですが、当時調べた事をEU27か国に対象を広げて今一度まとめてみました。
高い物ほど税の低い国で、お得に買い物をしたいですからね!
様々な単一市場を謳うEUですが、面白い事にEU27か国は、国ごとにVAT(付加価値税)が異なります。
日本からの旅行者の場合、仮に商品の値段が同じであれば、VAT(付加価値税)が高い国で購入した方が、還付金が多くなるのでお得です。
ヨーロッパを訪問する方の参考になれば幸いです。
VAT(付加価値税)とは
VAT(付加価値税)とは、Value Added Taxの略語です。
- 簡単に説明すると、VATとは日本の消費税のようなもの
- 原則VATは、EU内で消費される物やサービス全てに適用
- 間接消費税の一つ
- 標準税率(15%以上)と軽減税率(5%以上、2段階まで設定可)があり、EUのVAT指令(Directive)を満たす範囲であれば、メンバー国ごとに税率を設定可能
- 消費課税になじまない土地・金融・保険等や、政策的配慮を要する医療・教育等は、原則非課税
EUのVAT指令(Directive)原文リンクです。
COUNCIL DIRECTIVE 2006/112/EC of 28 November 2006 on the common system of value added tax
ヨーロッパ28か国のVAT比較リスト、国民負担率
EU27か国にイギリスを加えた、VAT(標準税率・軽減税率)リストです。合わせて、国民負担率(Tax-to-GDP ratio)も追記しておきます。
Tax-to-GDP ratio = (Taxes + Net Social Contributions) / GDP
国民負担率 = (租税負担 + 社会保障負担) / 国内総生産※
※日本では国民所得(National Income)を分母に使うケースが散見されますが、ユーロ統計局に合わせて、本記事ではGDPを使用。
VAT適用率は2020年1月1日付け、国民負担率は2018年暦年の情報です。
(ソース元はどちらも、ユーロ統計局)
国 | 標準税率 | 軽減税率 | 国民負担率 |
---|---|---|---|
オーストリア | 20% | 10% / 13% | 42.8% |
ベルギー | 21% | 6% / 12% | 47.2% |
ブルガリア | 20% | 9% | 29.9% |
クロアチア | 25% | 5% / 13% | 38.6% |
キプリス | 19% | 5% / 9% | 33.8% |
チェコ | 21% | 10% / 15% | 36.2% |
デンマーク | 25% | – | 45.9% |
エストニア | 20% | 9% | 33.0% |
フィンランド | 24% | 10% / 14% | 42.4% |
フランス | 20% | 5.5% / 10% | 48.4% |
ドイツ* | 19% | 7% | 41.5% |
ギリシャ | 24% | 6% / 13% | 41.5% |
ハンガリー | 27% | 5% / 18% | 37.6% |
アイルランド | 23% | 9% / 13.5% | 23.0% |
イタリア | 22% | 5% / 10% | 42.0% |
ラトビア | 21% | 5% / 12% | 31.4% |
リトアニア | 21% | 5% / 9% | 30.5% |
ルクセンブルグ | 17% | 8% | 40.7% |
マルタ | 18% | 5% / 7% | 32.7% |
オランダ | 21% | 9% | 39.2% |
ポーランド | 23% | 5% / 8% | 36.1% |
ポルトガル | 23% | 6% / 13% | 37.2% |
ルーマニア | 19% | 5% / 9% | 27.1% |
スロバキア | 20% | 10% | 34.3% |
スロベニア | 22% | 5% / 9.5% | 37.9% |
スペイン | 21% | 10% | 35.4% |
スウェーデン | 25% | 6% / 12% | 44.4% |
イギリス | 20% | 5% | 35.1% |
*ドイツは2020年7月1日から年末まで、コロナによる経済対策の一環として、VATを減税(標準税率を19%→16%、軽減税率を7%→5%)。
- EU27か国の標準税率、平均値は21.5%
- EU27か国の標準税率、最大値はハンガリーの27%
- EU27か国の標準税率、最小値はルクセンブルグの17%
- EU27か国で軽減税率無しは、デンマークのみ
- EU27か国の国民負担率、平均値は37.4%
- EU27か国の国民負担率、最大値はフランスの48.4%
- EU27か国の国民負担率、最小値はアイルランドの23%
デンマークは物価もVATも高い上にユーロ導入国では無いし、軽減税率も無しなんですね。
EU内でも全ての国が通貨ユーロを導入している訳では無いので、一概に比較はできませんが、それでも標準税率の差が最大10%となると、結構なインパクトです。
なぜEU内で唯一、デンマークは軽減税率が無いのかは、デンマーク大使館が日本語で説明しています。
デンマーク大使館
引用元リンク:https://www.facebook.com/EmbassyDenmark/photos/a.248426095193921/867613036608554/
8 September 2015
【デンマークの消費税は25%でも軽減税率なし!】
デンマークの付加価値税(日本の消費税に当たる)は、25% という世界でもかなり高い税率です。その上、食料品などへの軽減税率を一切設けていません。
軽減税率を設けていないのは、以下の理由があります。
(1)徴税コストを抑制する
(2)軽減税率の適用対象品目の峻別が困難である
(3)税の歪みを抑制する
(4)高所得者は食料品に対しても相応の支出を行うため高所得者の方が軽減税率による負担軽減額が多くなる
(5)低所得者への配慮は社会保障給付によって行う方が効率的である
なお、慈善活動や文化活動、非営利活動などにより提供されるサービスなどは非課税となっています。
因みにデンマークの標準税率ですが、1967年は10%でした。
確かにデンマークに軽減税率はありません、そして上記では触れられておりませんが、実はゼロ税率(つまり税金がかからない)として定期刊行される新聞があります。デンマーク語の保護という理由と、政治的な理由によるものらしいです。
世界で初めて1954年に、付加価値税を導入した国フランスは、国民負担率で貫録の1位です。
そういえば『21世紀の資本』で世界的に注目されたトマ・ピケティ氏(Thomas Piketty)はフランス人です。
『21世紀の資本』ですが、いつの間にか映画化されていました。
余談ですが、フランス人ほど(労働者・階級)意識の高い国は他にないと思います。ピケティ氏の本が話題になったのもそうですし、夏休みはしっかり1か月程度取る、年中ストライキを実施(公共交通機関も容赦しないので、フランスに行く際は要注意です)、政権に抗議する「黄色いベスト運動」をはじめとするデモ活動など、ヨーロッパ内でもフランスは際立っていると思います。
なぜEUでVATが導入されたのか
なぜEUでVAT(付加価値税)が導入されたかですが、簡単に言うと透明性のある課税システムがEU域内で求められていたからです。
1967年にEUの前身であるEC(欧州共同体)が誕生した際、加盟国であるベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルグ、オランダの6か国は、それぞれ異なる間接消費税を課していました。
多段階方式を取っていた為、最終的なある商品価格に、税としていくら含まれているか補足する事が非常に困難でした。
そのため、EU諸国が故意或いは過失で、税還付を本来より大きく見積もってしまう事で、輸出価格が不当に安く表示されてしまうリスクがありました。
そこで、単一マーケットを謳うEUにおいて、中立的で透明性のある課税システムが求められていた事から、VAT(付加価値税)が導入されました。
税制については、EU指令で共通の枠組みを作った上で、各メンバー国ごとに税率や課税ベースを設定しているので、VAT共通化がEUで進んでいるようで、実態を見るとさほど進んでいない事が分かるかと思います。
結構、国ごとで標準税率も軽減税率もバラバラなんですよね…
またEUのVATは、長らく付加価値税のお手本とされてきましたが、多段階税率と広範な非課税項目を原因として、その在り方や効果に否定的な意見も出ていたりします。
ノーベル経済学賞受賞者であるJames Mirrlees氏主導で、税制改革についてまとめられた報告書(所謂Mirrlees Review)があります。
2010年9月 Dimensions of Tax Design (volume 1)
https://www.ifs.org.uk/publications/7184
2011年9月 Tax by design (volume 2)
https://www.ifs.org.uk/publications/5353
どちらもページ右下に、フル・レポートへのリンクあり。
イギリスのVAT制度が、ボロクソに言われています。
EU自身も、問題点は認識しており単一のVAT制度をとのスタンスですが、なかなか実際問題難しいようです。
VATの還付
EU圏外に居住する人(つまり、日本に住んでいる日本人など)が、EU内で購入した物品はVATの還付請求が可能です。
日本での免税ショッピングだと、お店で買い物をする時に、そもそも税金を払わなくて良い、或いは一旦支払し別のレジで即還付が可能ですが、EUでは一度税金を払わなくてはなりません。
一度、免税ショッピングをしてみると対して難しい事はありませんが、注意点と合わせて念のため。
- 厳密には居住国の証明が必要、実務上は日本のパスポートでOKのお店がほとんど
- VAT-free(免税)適用かは、お店次第
- VAT-free(免税)対象となる最低金額は175ユーロ。但しお店により、少額対応可能
- お店によって税還付手続きの手数料あり、VAT全額を消費者が受取れる訳では無い
- 税関で必ず輸出の証明となるスタンプをもらう
- VAT-free(免税)として購入した商品は、購入日より3か月以内に、EU域外に出さないといけない
VATとTAXの違い
VAT(付加価値税)とTAX(消費税)の違いは、どの視点で税を捉えるかです。
VATであれば事業者が生み出す価値(付加価値)に、TAXであれば物やサービスを消費する事に、それぞれ視点が置かれます。
まとめ
イギリスに住んでいた時は、ゼロ税率といって、食料品(一部例外あり)、ケーキ・ビスケット、茶・コーヒー・牛乳、医薬品、書籍、子供服(14歳未満)など無税でした。
今もイギリスでは無税です。
因みに子供服は政府ガイドラインがあり、商品タグ等に記載の対象年齢ではなくて、厳密には実測サイズで判断されます。
https://www.gov.uk/guidance/vat-on-young-childrens-clothing-and-footwear-notice-714
わたしが現在住んでいるドイツ、軽減税率はありますが、ゼロ税率はありません!
ご興味があれば、品目ごとのVAT(付加価値税)を記したEU統計局の公式レポートがあるのでご覧ください。
https://ec.europa.eu/taxation_customs/sites/taxation/files/resources/documents/taxation/vat/how_vat_works/rates/vat_rates_en.pdf
本来、税を語るのであれば負担する面だけでなく、メリットを享受する面(インフラや社会福祉・公的扶助・医療保険・労働保険などの社会保障)と合わせて比較すべきだとは思いますが、本記事ではヨーロッパのVAT(付加価値税)に注目してまとめてみました。
EU内で社会保障が、これまた国ごとに当然バラバラなので、VAT共通化も現実問題かなり実現障壁が高いと言えそうです。
※本文は以上です。
もし記事を気に入っていただけたら、是非、SNS等でシェアいただけたらと思います!
記事一覧は、サイトマップから確認できます。