ハロッズ、セルフリッジズ、リバティ、フェンウィック、フォートナム&メイソン…ロンドンにある老舗百貨店ですが、この内3つがイギリス指定建造物に登録され、2つが英国王室御用達(ロイヤルワラントを保有)、1つが現在も創業者一族がオーナーです。
また意外と知られていませんが、同一のオーナーが2つの百貨店を保有しています。
何れも有名なので多くの人が聞いた事のある名前かと思いますが創業者の物語や、建築物の歴史をちょっと知るだけで、百貨店でのショッピングが数倍、数十倍楽しくなるかと思います!
本記事では、一度は訪れてみたいイギリスの老舗百貨店5選について、元ロンドン在住者が説明したいと思います。
ハロッズ(Harrods)
ハロッズ(Harrods)は、英国人であるCharles Henry Harrod氏が1849年に設立。高級百貨店の代名詞的な存在ですが、設立当初は日常食料品や紅茶を扱うお店でした。
ブティックやセレクトショップが立ち並ぶロンドン屈指のショッピング通り、ナイツブリッジ(Knightsbridge)にあります。
1883年12月7日に火事で全焼しましたが再建され、翌年に再オープンを果たし現在も同じ建物が使われています。
ハロッズは、1969年イギリス指定建造物(Grade Ⅱ Listed)に登録(登録番号:1294346)されています。
https://historicengland.org.uk/listing/the-list/list-entry/1294346
ハロッズは建物の内装というか仕切りがユニークで、何回訪れても必ず迷います。私は車を運転していて迷う事はなく、どちらかというと方向感覚には優れている方だと思っているのですが、不思議です。
1898年に世界で初めてエスカレーターを導入した建物としても知られています。人々は初めて見る「動く階段」に興奮し、気分を収めるためにブランデーが配られたとか。
1920年ハロッズは英国御用達となりロイヤルワラントが付与、以来英国ロイヤルファミリーとハロッズはある事件が起きるまで関係が続きます。
1917年から2014年まで、ペットとしての動物を販売していました。昔はライオンやトラ、象なども取り扱っていました。なんでもありの時代ですね。
元オーナーの中でも一際目立っていたのが、1985年から2010年の間ハロッズを保有していたMohamd Al-Fayed氏です。
1920年から続く英国御用達の百貨店として、また故ダイアナ妃(Diana, Princess of Wales)の恋人がAl-Fayd氏の末っ子ドディ(Dodi)であった事もあり、英国ロイヤルファミリーとハロッズの関係は親密なものと思われていましたが、長く続いていた関係に転機が訪れます。
1997年パリで交通事故があり、ダイアナ妃とドディは帰らぬ人となりました。
https://www.bbc.co.uk/news/special/politics97/diana/driver.html
事故の原因は、運転手の飲酒運転と執拗なパパラッチの追跡とされています。
Al-Fayed氏は陰謀説を唱え、当時ハロッズに掲げていた英国ロイヤルワラントの紋章を燃やす事件がありました。Al-Fayed氏自らが取り下げたものですが、結果的にハロッズの英国ロイヤルワラントは2000年に登録が抹消され、90年続いた英国ロイヤルファミリーとハロッズの関係に終止符がうたれました。
現在のオーナーは、カタール投資庁(Qatar Investment Authority)ですが、ハロッズ店内には今もなおダイアナ妃とドディの記念碑が飾られています。
しかし英国ロイヤルワラントが無くなってからも、ハロッズの百貨店としての地位は不動で別格と言えます。
2008年にはロンドン・ヒースロー空港の全ターミナルに、ハロッズは店舗を展開。20%の付加価値税(VAT)が控除された値段で、お買い物ができるようになりました。
色々とぶっ飛んだ話題が多いハロッズですが、2018年には10年間で約24億円相当の買い物をした女性が話題になっていました。
セルフリッジズ(Selfridges)
セルフリッジズ(Selfridges)は1909年に、米国人であるHarry Gordon Selfridge氏が設立しました。
設立当時、Selfridge氏は既に51歳でした。
セルフリッジズが特異なのは、Selfridge氏がアメリカで培ったビジネス経験を、まだサービスの未開地であったイギリスで取り入れ、その革新性から成功した点です。
セルフリッジズは英国王室御用達(ロイヤルワラントを保有)です、2001年からのようですが公式ページではロイヤルワラントの紋章を掲げず、隠している訳ではないかと思いますが英国王室御用達という事をあまり前面にアピールしていないです。
2003年からW. Galen Westonと一族により保有されています。Weston氏は英国生まれで、英国籍とカナダ国籍を保有しています。
ロンドンのオックスフォード通り(Oxford St)にあり、1ブロック使い切っている贅沢で大きな建物(ハロッズより若干小さい)です。
緩やかな坂の上に建っているので、セルフリッジズ内にも同じフロアですが階段(うろ覚えですが、1-2段程)があります。
セルフリッジズは、1970年イギリス指定建造物(Grade Ⅱ Listed)に登録(登録番号:1357436)されています。
https://historicengland.org.uk/listing/the-list/list-entry/1357436
発色の良い黄色の紙袋は、一目でセルフリッジズと分かります。
夏場は屋上が解放され、レストランやバーがありますが、セルフリッジズの屋上といえば1920‐1930年代から続く伝統でもあります。
ハロッズは結構ごちゃごちゃしているのですが、セルフリッジズはディスプレイが大変綺麗です。
また伝統的なブランドのみならず、比較的新しいものや近年ではサスティナブルな商品も精力的に宣伝している印象です。
オックスフォード通り沿いにディスプレイされているショーウィンドウは季節感があって、いつ見ても楽しめます。
セルフリッジズがディスプレイに拘るのは、ヴィクトリア朝時代に遡ると言われています。セルフリッジズが開店したのはヴィクトリア朝後ですが、当時はオーナー等が店舗の前で客引きをするのが一般的であったと言われています。
米国人であったSelfridge氏は、客引きではなく、商品をショーウィンドウにディスプレイする事で、消費者の興味を引こうとしたのです。
香水やコスメをお店の入り口付近に設置したのも、セルフリッジズが初めてと言われています。
“the customer is always right.”、日本語に直訳すると「お客様は常に正しい」、日本的に意訳すると「お客様は神様」と言えますでしょうか。
この言葉をSelfridge氏はよく使っていたと言われています。何れもビジネスオーナーのJohn Wanamaker氏、Marshall Field氏は同じことを言っており、誰が初めて言ったのかは定かではありません。
この言葉に込められた思いは、「お客様の満足こそが、お店の将来を左右する」というものです。
ディスプレイにしろ、マーケティングにしろ、百貨店のパイオニア的な存在がセルフリッジズといっても過言ではないかと思います。
セルフリッジズが創業した7年後の1916年には、チャーリー・チャップリンのサイレント映画“The Floorwalker”(邦題:チャップリンの替玉)に、セルフリッジズが出てきている事から、時代の流れに乗り人々の注目を集めていた事が伺えます。
リバティ(Liberty)
チュードアの建築様式が特徴のリバティ(Liberty)、目抜き通りOxford Streetから一本東にあるMarlborough Streetに位置しているので、白色と黒色が目立つ建物も相まって、本記事で取り上げている百貨店の中で、リバティは少し違った雰囲気を醸し出しています。
リバティの設立は1874年、英国人であるArthur Lasenby Liberty氏は、将来の義父となる人から2,000ポンドを借りてRegent Streetにお店をオープン。当時はLiberty氏含め、3人でのスタートでした。
繊物や装飾品・工芸品などを取扱うお店として”East India House”を名乗り、船で東アジアの品物を輸入しロンドン市内で販売する事で有名になりました。
Liberty氏は、2,000ポンドの借金を僅か18か月で完済。現在もファッションやデザインを主軸に、美容・香水など力をいれています。
日本国内でも有名な「リバティ・プリント」は、ロンドンにあるリバティが発祥です。「リバティ風プリント」とか、模倣品を良く見かけます。
創業から50年後、1924年に建てられた現在のリバティは、1972年イギリス指定建造物(Grade Ⅱ Listed)に登録(登録番号:1357064)、実在した海軍の戦艦ヒンドゥスタン(HMS Hindustan)とインプラカブル(HMS Impregnable)の木材が使われています。
https://historicengland.org.uk/listing/the-list/list-entry/1357064
リバティの正面建物の高さと長さは、ヒンドゥスタンと同じです。また銅製の風向計は、ピルグリムをアメリカに運んだ船メイフラワー号をモデルにしたものです。
木材が贅沢に使われているリバティは、他の百貨店との違いを引き立たせています。
1890年代には、ヨーロッパで開花した自然と調和したライフスタイルを目指す新しい芸術運動、アール・ヌーヴォー(Art Nouveau)とともに、リバティは時代の寵児となりました。
リバティの伝統として、女優さんやアイコニックなブランドとのコラボで有名です(例えばChloë Sevigny、Kate Moss、Dita Von TeeseやSupremeからUniqloまで)。
プライベートエクイティのBluegemは2019年、Glendower Capitalに株式を売却した事で、リバティのオーナーは現在Glendower Capital(Deutsche Asset Managementから独立したプライベートエクイティ)となっています。
19TH JULY 2019
引用元リンク:https://www.bluegemcp.com/investment-news/2019/07/19/bluegem-exits-liberty
Bluegem II LP, a European mid-market fund focused on consumer brands, exited its participation in Liberty, the British iconic brand and flagship store, in a secondary recapitalisation led by Glendower Capital, a global secondary private equity manager.
フェンウィック(Fenwick)
フェンウィック(Fenwick)は、英国人であるJohn James Fenwick氏により1882年創業。
元々はマントや毛皮製品を中心に取扱っていましたが、Fenwick氏の息子Fredが1890年事業に参画し始めてから、百貨店へと進化を遂げます。
Fredは当時イギリスでは新しい形態であった百貨店そのものや、小売業を学ぶためパリへ行き、ボン・マルシェ百貨店(Le Bon Marché)に感化されたと言われています。
本記事で取り上げている百貨店の中では、明確に女性をメイン・ターゲットとして打ち出しているので、特に女性の方はテンションが上がりそうです。
男性は…別行動もありかと思います!
一等地に変わりありませんが、リージェント通りやオックスフォード通りでは無いので、観光客も減り少し落ち着いた雰囲気ですね。
ボンドストリートが有名店である事に違いは無いですが、フェンウィックの旗艦店はニューカッスルで、イギリス国内には9店舗あります。
今もなお、創業者フェンウィック一族がオーナーです。創業者の家族経営というのは、他の百貨店とも一線を画しています。
ボンドストリート店は1891年オープン、1980年に大きさが倍になりましたが、それでも他の老舗百貨店と比較すると小ぶりではあります。
旗艦店ニューカッスルで1971年から続く、クリスマスのウィンドウ・ディスプレイは毎年の恒例となっており、人々から愛されています。
フォートナム&メイソン(Fortnum & Mason )
フォートナム&メイソン(Fortnum & Mason)は、William Fortnum氏とHugh Mason氏により1707年創業。ハロッズより歴史が古く、本店はピカデリー(Piccadilly)に位置しています。
因みに、Mason氏は当時Fortnum氏が借りていた物件の家主です。
F&Mは英国王室御用達で、2つのロイヤルワラントを保有しています。上記リンク先の公式ページ・トップに、ロイヤルワラントの紋章が掲げられています。
1738年にスコッチ・エッグ(Scotch Egg)を発明したのがF&Mです、長距離の移動に適した持ち運び可能な食べ物として旅行者に重宝されました。
ティーストレーナーをはじめ、銀食器も数多く取り扱っています。
イギリス初のエベレスト遠征に、F&Mは物品の供給をした歴史もあります。ハンパー(Hamper)は大変有名です。
上層階ではアフタヌーンティーを提供していて、ヴィーガン向けメニューもあります。
建物正面にある時計は1964年に設置、ビッグベンと同じ鋳造工場で作られたものです。
1954年に初の女性取締役イヴリン・ホワイトサイド氏が取締役会に加わりました。
F&Mは、現在Wittington Investments Limitedにより保有されていますが、実は同社は英国におけるWeston一族の持株会社です。
Weston一族は、前述の通りセルフリッジズのオーナーでもあります。また百貨店ではありませんが、Wittington Investments LimitedはアパレルのPrimark(厳密には、Primarkの親会社であるAssociated British Foodsを)、家具のHeal’sも保有しています。
F&Mとセルフリッジズのオーナーが、実は同じという事は意外と知られていません。
まとめ
英国ロンドンにある老舗百貨店5選(ハロッズ、セルフリッジズ、リバティ、フェンウィック、フォートナム&メイソン)の記事でした。
十人十色の物語や歴史で面白いですよね、以下簡単にまとめた表です。
百貨店 | 設立 | 創業者 | イギリス指定建造物 | 英国王室御用達 | 創業者一族がオーナー | 現在のオーナー |
---|---|---|---|---|---|---|
ハロッズ | 1849年 | Charles Henry Harrod | 〇 | △ | × | Qatar Investment Authority |
セルフリッジズ | 1909年 | Harry Gordon Selfridge | 〇 | 〇 | × | Weston Family |
リバティ | 1874年 | Arthur Lasenby Liberty | 〇 | × | × | Glendower Capital |
フェンウィック | 1882年 | John James Fenwick | × | × | 〇 | Fenwick Family |
フォートナム&メイソン | 1707年 | William Fortnum Hugh Mason | × | 〇 | × | Wittington Investments Limited (Weston Family) |
日本国内の百貨店に行けば、世界各国から選りすぐりのモノを取り寄せていますし、インターネットやスマートフォン等の普及により個人輸入の敷居が低くなり(アマゾングローバルは本当に便利です)、誰でも簡単に国内外のものを入手できるようになしました。
しかし現地に赴き、実物を見て触って吟味するのは、(現在はコロナ禍という事もありますが)ある意味で贅沢な買い物の仕方になっているのかもしれません。
普段使いには、ジョン・ルイス(John Lewis)やデベンハムス(Debenhams)あたりがありますが、旅行者であればわざわざ行くまでもないかと思います。
またコスメ・ファッション好きなら、Harvey Nichols、 House of Fraserも楽しめるかもしれません。
HarrodsもSelfridgesも苗字に”s”が付されていますが、これはハロッズ家とかセルフリッジ家という意味になります。
※本文は以上です。
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