英国のクレジットカードとデビットカード比較、知らないとヤバい補償制度。

何気なく、手数料やポイント付与、引落しタイミング等に注目して、クレジットカードとデビットカードを使っていませんか?

結局のところ決済方法に関わらず、最終的にあなたが支払う金額や事実に変わりないですが、クレジットカードとデビットカード払いでは、実は万が一の時に、補償される範囲が大きく異なります。

この記事では、主にイギリス在住者、海外赴任や留学・移住などで渡英予定の方向けに、元イギリス在住者が、なぜデビッドカードではなくて、クレジットカード決済をすすめるのか、法的根拠を踏まえて説明したいと思います。

100ポンドを超える支払いを、デビットカードでしているのであれば、今すぐクレジットカード払いに変更した方が良いです。

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クレジットカードとデビットカード決済の違い

クレジットカードとデビットカード決済における、主な相違点です。

厳密には、一日や月間の利用限度額があったりするのですが、ここでは一般的な違いについて明記しました。

クレジットカードデビットカード
口座引落し後日即時
支払い方法まとめて都度
利用限度額利用限度額の範囲内口座残高
審査有り無し
手数料カード会社規定による無料
補償制度1974年消費者信用法セクション75チャージバック*
補償制度の法的拘束力有り無し
補償制度の対象となる取引金額100ポンド超、30,000ポンド以下特段の定め無し

*チャージバック
ビザ、マスターなどの場合。



表の前半部分は、何となく理解されている方が多いかと思います。
後半部分(太字)が、まさに本記事で取扱う内容です。


非常に違いが分かりにくいという点では、ダイレクトデビット(Direct Debit)スタンディングオーダー(Standing Order)リカーリングペイメント(Recurring Card Payment)の違いが何なのか、別途記事を投稿済みです。

イマイチ違いが分からない場合は、合わせてご確認いただけたらと思います。

1974年英国消費者信用法セクション75とは

英国の消費者信用法セクション75(Section 75 of the Consumer Credit Act)では、クレジットカード払いで商品やサービスを購入した消費者を、保護する規定があります。

どのような消費者保護規定かというと、クレジットカード会社は、リテール業者(サプライヤー)と同等の責任(jointly and severally liable)を負います。

Liability of creditor for breaches by supplier.
Subsection (1) If the debtor under a debtor-creditor-supplier agreement falling within section 12(b) or (c) has, in relation to a transaction financed by the agreement, any claim against the supplier in respect of a misrepresentation or breach of contract, he shall have a like claim against the creditor, who, with the supplier, shall accordingly be jointly and severally liable to the debtor.

引用元リンク:http://www.legislation.gov.uk/ukpga/1974/39/section/75



リテール業者(サプライヤー)とは、例えば航空会社や、デパート、家電量販店、アマゾンなど、商品やサービスを提供する側で、あなたがその対価を支払う相手先です。

さらりと書きましたが、クレジットカード払いにするだけで、消費者にとっては無料で、物凄く手厚い消費者保護を享受できます。

イギリスの消費者信用法セクション75は、ヨーロッパ圏で最強の法律ではないかと、わたしは思っています。https://ifura.net/uk-4-countries/


なお消費者信用法自体は、何度も法改正されていますが、1974年のセクション75は、執筆時点で、現在も有効です。

100-30,000ポンドのクレジットカード決済が対象

英国の消費者信用法セクション75は、100ポンド超から30,000ポンド以下のクレジットカード決済が対象です。

Subsection (1) does not apply to a claim—
(b)so far as the claim relates to any single item to which the supplier has attached a cash price not exceeding [F2£100] or more than [F3£30,000] [F4, or]

引用元リンク:http://www.legislation.gov.uk/ukpga/1974/39/section/75



但し例外規定があり、商品やサービスの対価が100ポンド超から30,000以下の場合、その一部をクレジットカード払いにした場合は、元々の商品やサービスの対価全額が、消費者信用法セクション75でカバーされます。

例えば、海外航空券代として1,000ポンドの内、1ポンド(1ペンスでも良い)だけをクレジットカード払いで、残りをデビッドカードやチェックで、あなたが航空会社に直接支払った場合です。

航空会社が破産して搭乗できなければ、あなたはクレジットカード会社から1,000ポンドの補償を得る権利を持つことになります。

法律なので、あなたがセクション75を根拠に、クレジットカード会社に申立て申請(クレーム)をした場合、クレジットカード会社は必ず返金してければなりません。

なんとも心強い法律です。

補償範囲

代表的な項目です。下手すると全くサプライヤーと連絡が取れないリスクがある、英国外での取引も、補償範囲に含まれるのはありがたいです。

  • “a debtor-creditor-supplier agreement”に該当*
  • 商品やサービスが、約束した期日までに提供されなかった
  • 商品やサービスが、約束した内容と異なっていた
  • 不利益を被った事で発生した、付随費用(例えば、航空会社が破産して復路の航空券を購入した場合、その航空券代)
  • 商品が、イギリス国内にデリバリーされる場合、英国内外**の取引(オンライン、電話、メールなど)
  • 既に解約済みのクレジットカード会社にも、クレーム可能
  • クレジットカード払い以外に、サプライヤーが提供する分割クレジット、自動車ファイナンスも対象


*簡単に言い換えると、
debtor = クレジットカードを使う消費者
creditor = クレジットカード会社
supplier = リテール業者(サプライヤー)

**2007年に英国貴族院より、英国外のsupplierであっても、消費者信用法セクション75が適用される判決を出しています。

補償範囲外

代表的な項目です。クレジットカード払い以外は原則、補償範囲外ですが、加えて第三者を介さずに、あなたが直接支払っている必要があります。

  • サプライヤーに対する直接的な支払いでない場合(例えば、航空券は代理店を通さず、航空会社から直接購入しないとダメ)
  • グーグルペイ、アップルペイやペイパル等の第三者プロバイダーを通す場合
  • クレジットカードからキャッシングして、現金払いをした場合
  • 家族カードでの支払いはグレー(避けた方が良い)
  • 一つのアイテム(商品やサービス)が、100ポンド以下の場合。
  • 商品に欠陥が見つかるも、製造業者による保証期間内である場合(直接、製造業者へ)
  • デビットカードプリペイドカード(RevolutやWiseなどの資金移動業者)チェック現金で支払った場合
  • 非商業的(対価を伴わない)契約に基づく場合
  • 土地の購入
  • クレジットカード提供者が、サプライヤーの場合

申立て申請(クレーム)方法

消費者保護規定として、クレジットカード会社は、リテール業者(サプライヤー)と同等の責任(jointly and severally liable)を負います、と説明しました。

そして消費者信用法セクション75の補償範囲に該当し、申立て申請(クレーム)をする場合、消費者は必ずしもリテール業者(サプライヤー)にアプローチせず、クレジットカード会社にさえクレームを言えば、クレジットカード会社が対応しないといけません。

要は、約束を果たさなかったので、支払ったお金を返してくれ、という話です。



例えば、航空会社や小売り業者が倒産して連絡がつかなくなってしまった場合、倒産はしていないけど話が全く通じないサプライヤーの場合、消費者信用法セクション75は、われわれ消費者にとって大変有益です。

現実的には、まず何かあったら以下の順になるかと思います。

  • リテール業者(サプライヤー)に連絡を試みる
  • 解決しない場合、クレジットカード会社にセクション75を根拠にクレームする旨連絡
  • それでも解決しない場合、オンブズマン(Financial Ombudsman Service)に連絡

英国消費者信用法セクション75Aとは

2010年に法改正があり、英国の消費者信用法セクション75A(Section 75A of the Consumer Credit Act)で、現代社会に沿うように内容が追加、また新たに30,000ポンド超も条件次第で補償される事になりました。

30,000ポンドを超える買い物って、なかなか無いと思いますが、念のため明記しておきます。

30,000-60,260ポンドのクレジットカード決済が対象

英国の消費者信用法セクション75Aは、30,000ポンド超から60,260ポンド以下のクレジットカード決済が対象です。

Further provision for liability of creditor for breaches by supplier
This section does not apply where—
(a)the cash value of the goods or service is £30,000 or less,
(b)the linked credit agreement is for credit which exceeds £60,260 [F2and is not a residential renovation agreement], or

引用元リンク:http://www.legislation.gov.uk/ukpga/1974/39/section/75A


例えば車の購入で、ディーラー経由で車両購入ローンとして借り入れた場合(カーファイナンス)が、消費者信用法セクション75Aの適用となります。

車両に欠陥があったり、車両本体やカーファイナンスに関する説明不備などが認められる場合、消費者はクレジットカード会社に申立て申請(クレーム)できます。

単にクレジットカードや、個人ローン(目的は自由)を用いて、車を購入しただけでは、セクション75Aの適用外です。


なお土地の購入や、事業借入などはセクション75、セクション75Aどちらも対象外です。

チャージバックとは

消費者信用法セクション75及び75Aは、クレジットカードに係る補償制度でした。
デビットカードの補償制度としては、チャージバックがあります。

  • 法的拘束力が無い
  • 単に各カード会社が定めたルール
  • 決済金額はいくらでもOK
  • 一般的には120日以内に申立て申請(クレーム)する必要あり
  • サプライヤーではなく、直接カード会社にクレーム可能


チャージバックは、法的拘束力が無いので必ず返金が保証されるものではありませんが、実質的に契約の不履行、無効、取消、解除などの場合には、カード会社が対応するものなので、サプライヤーが倒産した場合以外であれば、使えそうな仕組みです。

でも、倒産をカバーしている消費者信用法セクション75は、やはり優秀過ぎます。

クレジットスコア

渡英したばかりであれば、イギリスにおけるクレジットヒストリーが全くないので、就労の有無によっては、クレジットカードを作る事自体が難しいかもしれません。

仮にクレジットカードを作れたとしても、最初の与信枠は1,000ポンド程度とかざらで、笑えてきます。

こればかりは地道に毎月決済をつけて、クレジットヒストリーを作るしかありません。

イギリスのチャレンジャーバンクMonzo(モンゾー)が、無料でクレジットスコアを開示請求できるサービスを開始予定ですね。

24 FEBRUARY 2020
Soon, you’ll be able to see your credit score in Monzo

引用元リンク:https://monzo.com/blog/2020/02/24/credit-scores



わたしはイギリスからドイツに引越しをしたタイミングで、モンゾー口座は閉鎖しましたが、イギリス在住者であれば、一番おすすめしたい銀行です。

以下信用情報機関大手3社の内、モンゾーはExperian、TransUnionと提携していますね。

  • Equifax
  • Experian
  • TransUnion


こちらもご参考までに。

キャッシュレス社会

日本からイギリスに引越しをして生活を立ち上げるまで、特段気にした事が無かったのですが、イギリスをはじめヨーロッパではデビットカードの使用頻度が、クレジットカードのそれに比べてかなり高いです。

イギリスに関しては、ヨーロッパでもキャッシュレス化が進んだ国の一つなので、デビットカードさえあれば、決済に困る事はなく、むしろクレジットカードを持つ必要性があるのか疑問にさえ思っていました。

しかし上記で説明した通り、イギリスにおいて消費者信用法セクション75は、非常に強力な消費者保護法なので、クレジットカードを保有するメリットは大いにあります!

最後に

イギリスのクレジットカード自体を比較した記事、デビッドカード(銀行)自体を比較した記事は、それぞれ散見するものの、カード決済方法の違いによる補償制度に焦点を充てた記事をあまり見かけなかった為、今回まとめてみました。

長くなってしまったので、ポイントをもう一度書いておきます。

  • 渡英したら、クレジットカードを申し込む
  • 100ポンド超の支払いには(部分的にでも)、クレジットカード払いにする
    ☞消費者信用法セクション75により、万が一の時、補償される


消費者信用法セクション75を意識してか、決済はデビットカードしか受け付けない企業も中にはあります。



イギリス以外のヨーロッパ大陸にお住まいの場合、EU指令に基づき、ある程度消費者は保護されますが、クレジットカード会社にサプライヤーと同等の共同責任を負わせる(jointly and severally liable)、イギリスのセクション75ほど強固なものは存在しません。


以下の投稿記事内で、ヨーロッパ在住者がクレジットカード・デビットカードを使用した場合の違いについて、整理しています。


※本文は以上です。
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