ワイズ(旧TransferWise)公式の説明によると、送金額が増えるほど、手数料が高くなるとあります。
確かに実額でみるとその通りですが、手数料率や仲値からの差で見ると、一定の金額までは送金額が増えた方が、実質的な為替手数料が安くなります。
ワイズ公式の手数料計算ツールがあり、誰でも簡単に確認できますが、実は方程式を解く必要があり、その数式は若干複雑です。
本記事では知らないと損するかもな、公式サイトより数歩踏み込んだトランスファーワイズの手数料計算式、使い方のコツ等を説明したいと思います。
前提条件としてマルチカレンシー(ボーダレス)口座を保有しておらず、ワイズへの入金方法は最も安価な方法とします。
結論、使い方のコツ
ワイズを使うにあたり、本記事でお伝えしたい要点です。
- 固定費があるので、少額の海外送金は避けるべき
- SWIFT扱いにならない程度の送金額(100万円以下)が、最も高いコストパフォーマンス
- 為替手数料は実額だけでなく、手数料率や仲値からの差で判断
- 円安になるほど、仲値との差が拡大。つまり為替に対して実質的な手数料増
- 競合他社とではなく、ワイズ自身のコストと比較
では具体的に、手数料計算式、送金額に応じた手数料の実額と料率等を示した表で、補足説明したいと思います。
手数料計算式を徹底解説
ワイズの手数料体系は確かに透明性が高く、送金前に手数料がいくらか、受取手はいくらの金額を得るか、非常に明確です。
公式サイトでもAppでも、簡単に手数料を確認できるので本当に便利ですよね。
シンプルに変わりないのですが、手数料の計算式は方程式を解く必要があり、若干複雑です。
まず基本となる、数式を確認したいと思います。
ワイズの手数料は、固定費と変動費からなります。それぞれ通貨ペア、円貨を売るのか買うのか(外貨を買うのか売るのか)、により異なります。
当初執筆時点の情報ですが、以下の通り表にしてみました。
通貨ペア | 固定費 | 変動費(%) |
---|---|---|
EURJPY | 2.25 | 0.60 |
GBPJPY | 1.80 | 0.56 |
USDJPY | 8.42 | 0.64 |
JPYEUR | 60 | 0.63 |
JPYGBP | 63 | 0.63 |
JPYUSD | 132 | 0.63 |
外貨→円貨(円転)が上3つの、EURJPY、GBPJPY、USDJPY。
円貨→外貨(外貨転)が下3つの、JPYEUR、JPYGBP、JPYUSD。
手数料(B) = 固定費 + 変動費(%)
※変動費(%)は、実際の送金額(C)に対して
実際の送金額(C) = (本来の送金額(A) – 固定費) / (1 + 変動費(%))
数値を入れて、計算してみます。1,000ユーロ(A)を、円にして送金する場合です。
端数は四捨五入しています。
Step 1
まずは、実際の送金額(C)を求めます。
= (本来の送金額(A) – 固定費) / (1 + 変動費(%))
= (1,000 – 2.25) / (1 + 0.6%)
= 997.75 / 1.006
= 991.80
Step 2
次に、手数料(B)を求めます。
= 固定費 + 変動費(%) * 実際の送金額(C)
= 2.25 + 0.6% * 991.80
= 8.20
実は本来の送金額(A)と、実際の送金額(C)との差額が、手数料(B)です。
= 本来の送金額(A) – 実際の送金額(C)
= 1,000.00 – 991.80
= 8.20
やや複雑なのが、変動費(%)を本来の送金額(A)では無くて、実際の送金額(C)と乗じている点です。
通貨別の固定費と変動費(%)の数値は、トランスファーワイズの公式で確認できますが、上記実際の送金額(C)の式はどこにも載っていません。
実際の送金額(C)は、以下のように求めました。
実際の送金額(C) = 本来の送金額(A) – 固定費 – 変動費(%) * 実際の送金額(C)
実際の送金額(C) + 変動費(%) * 実際の送金額(C) = 本来の送金額(A) – 固定費
実際の送金額(C) * (1 + 変動費(%)) = 本来の送金額(A) – 固定費
実際の送金額(C) = (本来の送金額(A) – 固定費) / (1 + 変動費(%))
そして手数料(B)は、為替水準に関わらず、本来の送金額(A)によって常に同じ解となります(ワイズが、固定費・変動費(%)を変更しない限り)。
つまり実際の送金額(C)は、本来の送金額(A)と常に対になっています。この点を踏まえて、次の外貨送金&手数料マトリクスをご覧下さい。
外貨送金&手数料マトリクス
今までの記事で、ワイズがどのように手数料を計算するか理解できたかと思います。
続いて、外貨送金&手数料マトリクスをみてみます。
AからCの数値は、為替水準に関わらず常に一定です。
D以降の数値は、為替の影響を受けます。
外貨→円貨(円転)
【EURからJPY】で、【仲値125.00(FX)】と仮定した場合です。
本来の送金額 A | 手数料 B | 手数料率% B / A | 実際の送金額 C = A – B | 円貨受取額 D = C * FX | 実質為替 E = D / A | 仲値との差 F = FX – E | 円換算手数料 FX * B |
---|---|---|---|---|---|---|---|
100 | -2.83 | -2.83 | 97.17 | 12,146 | 121.46 | -3.54 | -354 |
500 | -5.22 | -1.04 | 494.78 | 61,848 | 123.70 | -1.30 | -652 |
1,000 | -8.20 | -0.82 | 991.80 | 123,975 | 123.97 | -1.03 | -1,025 |
3,000 | -20.13 | -0.67 | 2,979.87 | 372,484 | 124.16 | -0.84 | -2,516 |
5,000 | -32.06 | -0.64 | 4,967.94 | 620,993 | 124.20 | -0.80 | -4,007 |
7,000 | -43.99 | -0.63 | 6,956.01 | 869,502 | 124.21 | -0.79 | -5,498 |
10,000 | -61.88 | -0.62 | 9,938.12 | 1,242,265 | 124.23 | -0.77 | -7,735 |
【GBPからJPY】で、【仲値138.00(FX)】と仮定した場合です。
本来の送金額 A | 手数料 B | 手数料率% B / A | 実際の送金額 C = A – B | 円貨受取額 D = C * FX | 実質為替 E = D / A | 仲値との差 F = FX – E | 円換算手数料 FX * B |
---|---|---|---|---|---|---|---|
100 | -2.35 | -2.35 | 97.65 | 13,476 | 134.76 | -3.24 | -324 |
500 | -4.57 | -0.91 | 495.43 | 68,369 | 136.74 | -1.26 | -631 |
1,000 | -7.36 | -0.74 | 992.64 | 136,984 | 136.98 | -1.02 | -1,016 |
3,000 | -18.5 | -0.62 | 2,981.50 | 411,447 | 137.15 | -0.85 | -2,553 |
5,000 | -29.63 | -0.59 | 4,970.37 | 685,911 | 137.18 | -0.82 | -4,089 |
7,000 | -40.77 | -0.58 | 6,959.23 | 960,374 | 137.20 | -0.80 | -5,626 |
10,000 | -57.48 | -0.57 | 9,942.52 | 1,372,068 | 137.21 | -0.79 | -7,932 |
【USDからJPY】で、【仲値105.00(FX)】と仮定した場合です。
本来の送金額 A | 手数料 B | 手数料率% B / A | 実際の送金額 C = A – B | 円貨受取額 D = C * FX | 実質為替 E = D / A | 仲値との差 F = FX – E | 円換算手数料 FX * B |
---|---|---|---|---|---|---|---|
100 | -9.00 | -9.00 | 91.00 | 9,555 | 95.55 | -9.45 | -945 |
500 | -11.55 | -2.31 | 488.45 | 51,288 | 102.58 | -2.42 | -1,212 |
1,000 | -14.73 | -1.47 | 985.27 | 103.454 | 103.45 | -1.55 | -1,546 |
3,000 | -27.44 | -0.91 | 2,972.56 | 312,118 | 104.04 | -0.96 | -2,882 |
5,000 | -40.16 | -0.80 | 4,959.84 | 520,783 | 104.16 | -0.84 | -4,217 |
7,000 | -52.88 | -0.76 | 6,947.12 | 729,447 | 104.21 | -0.79 | -5,553 |
10,000 | -71.96 | -0.72 | 9,928.04 | 1,042,444 | 104.24 | -0.76 | -7,556 |
円貨→外貨(外貨転)
日本国内から海外送金は2020年4月から、一段と手数料が安くなりました。
【JPYからEUR】で、【仲値125.00(FX)】と仮定した場合です。
本来の送金額 A | 手数料 B | 手数料率% B / A | 実際の送金額 C = A – B | 外貨受取額 D = C / FX | 実質為替 E = A / D | 仲値との差 F = FX – E | 外貨換算手数料 B / FX |
---|---|---|---|---|---|---|---|
10,000 | -122 | -1.22 | 9,878 | 79.02 | 126.55 | -1.55 | -0.98 |
50,000 | -373 | -0.75 | 49,627 | 397.02 | 125.94 | -0.94 | -2.98 |
100,000 | -686 | -0.69 | 99,314 | 794.51 | 125.86 | -0.86 | -5.49 |
300,000 | -1,938 | -0.65 | 298,062 | 2,384.50 | 125.81 | -0.81 | -15.50 |
500,000 | -3,190 | -0.64 | 496,810 | 3,974.48 | 125.80 | -0.80 | -25.52 |
700,000 | -4,442 | -0.63 | 695,558 | 5,564.46 | 125.80 | -0.80 | -35.54 |
1,000,000 | -6,320 | -0.63 | 993,680 | 7,949.44 | 125.80 | -0.80 | -50.56 |
【JPYからGBP】で、【仲値138.00(FX)】と仮定した場合です。
本来の送金額 A | 手数料 B | 手数料率% B / A | 実際の送金額 C = A – B | 外貨受取額 D = C / FX | 実質為替 E = A / D | 仲値との差 F = FX – E | 外換算手数料 B / FX |
---|---|---|---|---|---|---|---|
10,000 | -125 | -1.25 | 9,875 | 71.5 | 139.75 | -1.75 | -0.91 |
50,000 | -376 | -0.75 | 49,624 | 359.60 | 139.04 | -1.04 | -2.72 |
100,000 | -689 | -0.69 | 99,311 | 719.65 | 138.96 | -0.96 | -4.99 |
300,000 | -1,941 | -0.65 | 298,059 | 2,159.85 | 138.90 | -0.90 | -14.06 |
500,000 | -3,193 | -0.64 | 496,807 | 3,600.05 | 138.89 | -0.89 | -23.14 |
700,000 | -4,445 | -0.63 | 695,555 | 5,040.25 | 138.88 | -0.88 | -32.21 |
1,000,000 | -6,323 | -0.63 | 993,677 | 7,200.56 | 138.88 | -0.88 | -45.82 |
【JPYからUSD】で、【仲値105.00(FX)】と仮定した場合です。
本来の送金額 A | 手数料 B | 手数料率% B / A | 実際の送金額 C = A – B | 外貨受取額 D = C / FX | 実質為替 E = A / D | 仲値との差 F = FX – E | 外貨換算手数料 B / FX |
---|---|---|---|---|---|---|---|
10,000 | -194 | -1.94 | 9,806 | 93.39 | 107.07 | -2.07 | -1.85 |
50,000 | -444 | -0.89 | 49,556 | 471.96 | 105.94 | -0.94 | -4.23 |
100,000 | -757 | -0.76 | 99,243 | 945.17 | 105.80 | -0.80 | -7.21 |
300,000 | -2,009 | -0.67 | 297,991 | 2,838.01 | 105.71 | -0.71 | -19.14 |
500,000 | -3,261 | -0.65 | 496,739 | 4,730.84 | 105.69 | -0.69 | -31.06 |
700,000 | -4,514 | -0.64 | 695,486 | 6,623.68 | 105.68 | -0.68 | -42.99 |
1,000,000 | -6,392 | -0.64 | 993,608 | 9,462.94 | 105.68 | -0.68 | -60.87 |
マトリクスが意味するもの
本記事ではEUR、GBP、USDを取り上げていますが、EURに注目して述べたいと思います。
適宜、新規タブを立ち上げる等、上記マトリクスを見ながらご確認下さい。
外貨→円貨(円転)は、まず固定費が高いですね。
円貨→外貨(外貨転)は、逆に固定費がかなり安い一方、変動費が高く設定されています。
結果、外貨→円貨(円転)は少額の送金程、手数料率が高くなります。しかし変動費が安い分、一定の送金額に達すると、円貨→外貨(外貨転)より手数料率が安くなります。
総額1,000ユーロを、円転する場合を見てみます。
送金額 | 手数料 | 送金回数 | 通算手数料 |
---|---|---|---|
100 | -2.8 | 10 | -28.0 |
500 | -5.2 | 2 | -10.4 |
1,000 | -8.2 | 1 | -8.2 |
こうやって比較すると、同じ1,000ユーロの送金でも、送金額と送金回数の組合せで、通算手数料が全然違う事が明白です。
また円貨→外貨(外貨転)のJPYEURは、手数料率が-0.63%に収斂する(100万円までの送金額の場合)一方、外貨→円貨(円転)のEURJPYは、-0.62%という数値を出しています。
仲値との差(F)で比較した方が、わたしも含めて日本人の場合、馴染みがあると思います。円貨→外貨(外貨転)は、マトリクスで最大-0.80ですが、外貨→円貨(円転)は、-0.80より低い数値になっています。
AからCの数値は、為替水準に関わらず常に一定です。
D以降の数値は、為替の影響を受けます。
という説明をしました、これは円安になるほど、仲値との差(F)が大きくなる、つまり為替に対して実質的な手数料が増える事を意味します。
円安時に円転したいと思う人が多い筈なので、ちょっと損です。
逆に円高になるほど、仲値との差(F)が小さくなるので、円貨を使って外貨を送金(購入)するには非常に有利と言えます。
例として【EURからJPY】で、【仲値150.00(FX)】と仮定した場合、送金額100に対する仲値との差(F)は、-4.25。送金額10,000だと、仲値との差(F)が、-0.93になります。
【仲値125.00(FX)】と仮定した場合それぞれ、-3.54と、-0.77でした。
ワイズ側からすると、彼らの認識する手数料(B)は、為替リスクを負わないので、常に一定です。
預金保険の対象外(銀行では無い)
ワイズは世界中でサービスを提供していますが、どの国でも銀行免許を保有していません。
銀行では無いので、いわゆる預金保険の対象外です。
使い方にもよりますが、ワイズ口座には、送金する度に入金する、受取る度に銀行口座へ振替えする等、預金保険対象の銀行口座に資金を入れておいた方が、より安全と言えます。
まとめ
ワイズを使うにあたり、本記事でお伝えしたかった要点を改めて記載しておきます。
- 固定費があるので、少額の海外送金は避けるべき
- SWIFT扱いにならない程度の送金額(100万円以下)が、最も高いコストパフォーマンス
- 為替手数料は実額だけでなく、手数料率や仲値からの差で判断
- 円安になるほど、仲値との差が拡大。つまり為替に対して実質的な手数料増
- 競合他社とではなく、ワイズ自身のコストと比較
ワイズは極めて透明性が高く、良心的なサイト・App設計、スタートアップ特有?の軽いノリも無く、手堅い運営をしていて、つくづく信頼のおけるフィンテックだと思います。
少額の送金をワイズでしたとしても、それでも競合他社より手数料が安い事が多いので、そこまで気にする必要もないのかもしれません。
ただわたしは少しでもお得に使いたいので、極力まとめて送金しています。
競合他社とでは無く、送金額に応じて変わるワイズ自身のレート(為替に対する実質手数料)を比較して、お得に使いましょう!
手数料に関して、決して不満がある訳ではないのですが、長年ワイズを実際に使っていて気付いた事をまとめてみました。
ワイズは、競合他社対比ほとんどの場合安いし、早いし、何より簡単に海外送金ができるので、まわりでも使っている人が本当に多いのですが、結構少額の送金を頻繁にしていたりするんですよね。
これからワイズを使おうか検討中の方や、既に使っている方の参考になれば幸いです。
※本文は以上です。
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