面子丸潰れのドイツ当局、フィンテックのワイヤーカードが破産申請

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ドイツ発のフィンテックと言えば、N26やFidor、SolarisBank、Wefox、Raisin、Deposit Solutions、Smava、Kreditech、Clark他が挙げられるかと思います。

ヨーロッパでドイツは、イギリスに次ぎフランス・オランダ・スウェーデン等とともに、フィンテック市場において注目を集めている中、ドイツの決済サービス会社であるワイヤーカード(Wirecard)が、2020年6月25日破産申請手続きを開始しました。



ドイツ株価指数(DAX30)に組み込まれている企業が破綻、という初めてのケースに加えて、結果的に内部告発者を軽視し具体的な行動をとらなかったドイツ連邦金融監督庁(BaFin)、まだ不明な点が多く残されていますが、どうしてこのような事態が起こってしまったのか、ドイツ在住者の視点で整理したいと思います。

ワイヤーカード(Wirecard)とは

ワイヤーカード(Wirecard)とは、簡単にまとめると以下の通りです。


日本語や英語で、ワイヤーカードをフィンテックとして報じられているケースが散見しますが、一区切りにそうしてしまうのもやや強引な気がします。

N26など冒頭で述べたような企業と、ワイヤーカードの根本的な違いは、創業時からフィンテックであったか否かです。

ワイヤーカードは元々普通の決済サービス会社としてスタートしましたが、その後買収や新規サービスを通して、徐々にフィンテック寄りの形態に発展してきました。

ドイツ株価指数(DAX30)

ここでドイツ株価指数(DAX30)に触れておきたいと思います。

イメージとしては日経平均株価225と似ています。日経225は、東京証券取引所1部上場銘柄のうち、代表的な225銘柄をもとに計算される株価指数です。

ドイツ株価指数(DAX30)は、同様にフランクフルト証券取引所上場銘柄のうち、主要30銘柄(所謂ブルーチップ、時価総額と取引高より選定)をもとに計算される株価指数です。

当初執筆時点でのDAX30構成銘柄です。

太字は、DAXの値付けが開始した1988年7月1日から組み入れられている銘柄。
12の企業が入っています。

企業名業態
adidasClothing & Footwear
AllianzInsurance
BASFChemicals, Specialty
BayerChemicals, Specialty
BeiersdorfPersonal Products
BMWAutomobile Manufacturers
ContinentalAuto Parts & Equipment
CovestroChemicals, Specialty
DaimlerAutomobile Manufacturers
Deutsche BankCredit Banks
Deutsche BörseSecurities Brokers
Deutsche PostLogistics
Deutsche TelekomFixed-Line Telecommunication
Deutsche WohnenReal Estate
E.ONMulti-Utilities
FreseniusHealth Care
Fresenius Medical CareHealth Care
HeidelbergCementBuilding Materials
Henkel vz.Personal Products
Infineon TechnologiesSemiconductors
LindeIndustrial Gas
MerckPharmatceuticals
MTU Aero EnginesHeavy Machinery
Munich Reinsurance CompanyRe-Insurance
RWEMulti-Utilities
SAPSoftware
SiemensIndustrial, Diversified
Volkswagen (VW) vz.Automobile Manufacturers
VonoviaReal Estate
WirecardIT-Services

2020年6月4日に、LufthansaがDAXから外れてDeutsche Wohnenが組み入れられました。

また2018年Wirecardと入替えだったのは、Commerzbankです。


DAX30は、ドイツ株式市場上場の80%を代表すると言われており、DAX30は市場動向を見る上で重要な指標と言えます。

DAX tracks the performance of the 30 largest and most liquid companies on the German stock market, representing approximately 80 per cent of the aggregate market capitalisation of listed German stock corporations.

引用元リンク:https://deutsche-boerse.com/dbg-en/our-company/30-facts-about-30-years-of-DAX-29994


ドイツのGDPはEU内で堂々の1位、世界的にみてもアメリカ、中国、日本に次ぐ4位なので、DAX30が注目されるのも納得です。

そのDAX30に入る銘柄というのは、もはやドイツを代表する優良企業(まさにブルーチップ)といっても過言ではありません

逆ギレされる告発者たち

Wirecardについて疑問を呈したり、ネガティブな記事を投稿したりすると、もれなく同社が過剰反応し、訴えられる場合が多数あったようです。

memyselfandi007氏

今となってはですが、ドイツ現地では株関連のフォーラムでWirecard(の素行)は結構有名だったようで、ネガティブな記事に関しては、片っ端から削除されたり、なりふり構わず訴えを起こしていたようです。
https://www.wallstreet-online.de/diskussion/1140904-1-10/wirecard-top-oder-flop

匿名ブロガー:memyselfandi007氏により、2008年5月から始まったスレッドで、主なポイントを挙げると

  • 不透明なレポートで、カード支払高ボリュームが未記載、あるキャッシュフローのアイテムが間違ったカテゴリーに表示、現金がWirecard社のものか顧客のものか区別できない等
  • 奇妙なM&Aアクティビティ
  • かなりアグレッシブな会計上の利益を計上
  • 収益を計上し手元資金が潤沢なのに、継続して資本を調達


結局このmemyselfandi007氏は、フォーラムから出禁に。

また当時のスレッドに関連し別件で同じ2008年に、相場操縦及びインサイダー取引の疑いで事件が起きた為、memyselfandi007氏の仕事場に、ドイツ連邦刑事庁(Bundeskriminalamt = BKA)が現れ、翌日BKAへ出頭し事情聴取に応じるよう要請があったとか。

もうなんだか、これを聞いただけで悪い事してなくても、ぞくぞくします。

Markus Straub氏とTobias Bosler氏

相場操縦の件は、memyselfandi007氏の投稿記事に触発された、ドイツの元投資保護協会=Schutzgemeinschaft der Kapitalanleger e. V. (SdK)のMarkus Straub氏とTobias Bosler氏が、SdKのニュースレターで、Wirecard株の売り(ショート)を推奨。

しかしWirecardは反論、当局からは逆に、相場操縦とインサイダー取引で両氏は罰金刑と禁固刑が課せられる結果に。

当時のニュース報道記事を読むと、相場操縦とインサイダー取引がメインに世間を騒がしStraub氏とBosler氏だけが社会の悪者に、Wirecardの疑いが結局どうなったか不思議なことに、あまり報じられていません。
https://www.spiegel.de/wirtschaft/urteil-im-insider-prozess-um-sdk-affaere-um-straub-und-bosler-a-822498.html


ドイツの経済紙Handelsblattでも、以下の通り報じています。
https://www.handelsblatt.com/finanzen/maerkte/boerse-inside/blick-hinter-die-kulissen-das-schwarzbuch-der-aktionaersschuetzer/2993648.html

Dan McCrumm氏

2010年Jan Marsalek氏がWirecardの最高執行責任者(COO)として着任すると、グローバル化を加速し、M&Aアクティビティが活発になり、アジアにも進出します。

あまり触れてはいけない感が醸成される中、Dan McCrumm氏が2015年に、FT Alphavilleに(恐らく初めて)Wirecardについて記事を投稿。
https://ftalphaville.ft.com/2015/04/27/2127427/the-house-of-wirecard/



その後も、Wirecardを取り上げていて2019年1月には、シンガポールの法人が当局による捜査を受けた記事をリリースし、改めて同社の問題を取り上げています。
https://www.ft.com/content/03a5e318-2479-11e9-8ce6-5db4543da632


Dan McCrumm氏は(予想通り)Wirecardに訴えられ、またドイツ連邦金融監督庁(BaFin)がMcCrumm氏を相場操縦の疑いで捜査を開始。

結局、この件でMcCrumm氏は有罪とはならず、Wirecard株の空売りが一時禁止されただけでした。



2019年2月、空売り禁止のお達しを出したBaFinのリリース記事に興味深いコメントがあります。

The Federal Financial Supervisory Authority (BaFin) hereby issues the following

General Administrative Act:
1. Establishing a net short position as well as increasing an existing net short position with reference to the shares of the following company is prohibited:

Wirecard AG (DE0007472060)

1. Facts

(中略)

German companies have been the target of “short attacks” in the past; such attacks posed a risk to market integrity in Germany and to trust in fair and efficient price determination. In 2008 and 2016, Wirecard AG was also targeted by “short attacks”, through which short-sellers profited from entering into certain positions, resulting in corresponding decreases in the share price of Wirecard AG. These attacks led to investigations regarding market manipulation by BaFin and the public prosecuting authorities. The “short attacks” were followed and facilitated by negative reporting in the media.

Since the end of January 2019, there have once again been various negative reports about the company in the press. The share price of Wirecard AG has fallen sharply over the past two weeks. Between 30 January 2019 and 15 February 2019, the share price dropped from EUR 167.00 (opening price on 30 January 2019) to EUR 99.00 (closing price on 15 February 2019), which constitutes a 40% reduction in market capitalisation. A significant price drop could be observed following the publication of an article in the press claiming that the staff of one of Wirecard AG’s subsidiaries in Singapore had manipulated accounts in order to falsely report a higher turnover. The press reports have coincided with increased net short positions and with a corresponding high level of volatility in the share price of Wirecard AG. Since 1 February 2019, a significant increase in net short positions in shares of Wirecard AG has been observed, with a further sharp rise since 7 February 2019. In recent days, there has been a further substantial increase in the net short positions. These positions are held by various holders, in particular from abroad, and partially at levels below the notification threshold.

The events described above have resulted in uncertainty in the market, particularly with regard to the appropriate price determination for shares of Wirecard AG. In the current situation, there is a risk that this uncertainty will increase and escalate into general market uncertainty.

引用元リンク:https://www.bafin.de/SharedDocs/Veroeffentlichungen/EN/Aufsichtsrecht/Verfuegung/vf_190218_leerverkaufsmassnahme_en.html;jsessionid=A8C18F5A1D9C2E32A7DD6DD10E36D602.2_cid370?nn=9866146


監督する立場である、ドイツ連邦金融監督庁(BaFin)のWirecardに対する並々ならぬ熱の入れようが垣間見えます。

2008年と2019年は既出のニュース記事、2016年は以下だと思われます。
https://www.ft.com/content/0706763a-dadf-11e5-a72f-1e7744c66818

DAX30(ドイツ株価指数)構成銘柄の監査法人リスト

Wirecardと同じ監査法人EYは、他にどのような企業を担当しているのか気になったので調べてみました。




同様にイギリスの株価指数である、FTSE100構成銘柄も監査法人がどこか、全て調べてみました。

なおイギリスのGDPは、ドイツに次ぐ世界5位です。

まとめ

Wirecardは、その生い立ちを調べれば調べる程、胡散臭さがすごいのですが、事業拡大とフィンテックの波に上手く乗る中で、もてはやされ、国としてもドイツ発の世界を代表する決済サービス企業をサポートするスタンス(株の空売りを禁止したり、告発者を相場操縦などの疑いで逆に捜査)が見受けられ、すべてが裏目に出た印象です。

2015年に発覚した、ドイツ車フォルクスワーゲン(VW)の排ガス規制スキャンダルに続き、どうしたものでしょうか。

ドイツものって質実剛健だったり、デザインが秀逸だったり、個人的にはすごい好きなので、Wirecardの件は本当に残念で仕方ありません。



とりあえずネガティブな記事に過剰反応する企業は、今後要注意といったところでしょうか…


ドイツ版エンロンとも言われ、欧州証券市場監督局(European Securities and Markets Authority = ESMA)やイギリスの金融行為監督機構(FCA)などから、ドイツ連邦金融監督庁(BaFin)や監査法人であるErnst & Young(EY)が、しっかりと機能していたのか苦言を呈す声が出てきており、大変バツの悪い事態になっています。


EYですが、イギリスにおいては直近だとThomas CookNMC Healthなどのケース、中国のLucking Coffeeでも色々と話題になっていたかと思います。

因みに、EYイギリス本社の会長Steve Varley氏が、パートナーだったArthur Andersen(エンロンを担当していた会計事務所、解散するまでBig 5の一角)を経て、EYに入社したのが2005年です。
https://uk.linkedin.com/in/steve-varley?trk=author_mini-profile_title

少なからず、重鎮Varley氏のタイミングと合わせ、EYはArthur Andersenの企業カルチャーを引き継いでいるのでは、と指摘する声もちらほら…


最後にFTのDan McCrumm氏のクリップです、圧力に負けずに信念を貫いたジャーナリストとして敬意を表したいと思います。

Wirecard and the missing €1.9bn: my story | FT





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