10年に及ぶ米独チョコレート戦争、勝者はドイツのリッタースポーツ

2020年7月、約10年に及ぶ歳月を費やしたアメリカとドイツのチョコレート戦争が、ついに終結しました。

勝者はドイツのリッターシュポルト(タイトルは、敢えて英語読み表記にしています)。ドイツ語読みだと、「スポーツ」の部分が「シュポルト」になります。


ドイツ連邦裁判所(Bundesgerichtshof = BGH)が下した判決により、ドイツ国内において正方形のチョコレートは引続き、リッターシュポルトのみに認められます。


本記事では、米独チョコレート戦争について説明したいと思います。

なお米独チョコレート戦争という言葉は、勝手に筆者が名付けているだけなので、世の中では通用しません。

スポンサーリンク

Ritter SPORT(リッターシュポルト)とは

Ritter SPORT(リッターシュポルト)とは、ドイツのAlfred Ritter GmbH & Company KGが取り扱っているチョコレートです。

ドイツ国内では、リッターシュポルトを知らない人はいない位有名で、正方形のチョコレートがトレードマークです。



以下、簡単にAlfred Ritter GmbH & Company KGとリッターシュポルトの概要です。

ソース元はリッターの公式ページです。
https://www.ritter-sport.de/de/

  • 1912年ドイツ・シュトゥットガルト郊外のバートカンシュタットで創業
  • 現在、世界100か国で販売
  • 1932年創業者アルフレッドの妻クララのアイデアで、正方形のチョコレート、リッターシュポルトが誕生
  • 1960年創業者の息子は、正方形のチョコレートに事業を集中
  • 1970年に、初となるヨーグルト味のチョコレートを導入、またキャッチフレーズ„Quadratisch. Praktisch. Gut.”(=Square. Practical. Well)のテレビ宣伝効果もあり、ドイツ全土で知名度が飛躍的に向上
  • 1974年異なる味ごとにカラーを設定、商品をカラフル化
  • 1996年と2001年、正方形のチョコレートを商標登録
  • 2012年に創業100周年を迎える


1932年当時、チョコレートと言えば長方形が主流だった為、正方形のリッターシュポルトは珍しい存在でした。

チョコレートが割れたり崩れたりしない上で、どんなスポーツジャケットのポケットにでも入るよう、正方形が考案されました。

Milka(ミルカ)とは

Milka(ミルカ)とは、ドイツのMondelez Deutschland Services GmbH & Company KGが取り扱っているチョコレートです。

ドイツ国内では、リッターシュポルト同様にミルカを知らない人はいない位有名で、紫色の長方形のパッケージにアルプスの山・牛がトレードマークです。



以下、簡単にMondelez Deutschland Services GmbH & Company KGとミルカの概要です。

ソース元はミルカの公式ページです。
https://www.milka.de/

  • 1825年スイスで、パティシエのSuchard氏が開業
  • 1901年ドイツのレラハ(Löerrach)で、ミルカが誕生
  • Milkaの由来はドイツ語でMilchとKakao(英語のMilkとCocoa)、創業当時から紫色のパッケージを使用
  • 現在、世界40か国以上で販売
  • 1962年Milkaのロゴを商標登録
  • 1965年ドイツでシェア1位を獲得
  • 1970年創業者の名を成したSuchardがTobler(スイス)と合併し、Interfoodに
  • 1973年テレビ宣伝で牛を起用
  • 1982年InterfoodはJacobs cofee(ドイツ)と合併し、Jacobs Suchardに
  • 1990年Kraft Foods(アメリカ)が、Jacobs Suchardを買収
  • 2001年に創業100周年を迎える
  • 2011年キャッチフレーズ„Trau dich zart zu sein.”(=Dare to Be Tender)が誕生
  • 2012年Kraft Foods(アメリカ)がスナック部門をスピンオフし、その後2016年Mondelēz International(アメリカ)に改名



ミルカのパッケージにある牛やアルプスの山は、創業地であるスイスが由来です。

またToblerは、三角形のチョコレートを発明しています。Tobleroneもかなり有名ですね。



Mondelez Deutschland Services GmbH & Company KGはドイツ企業ですが、上記の通り1990年以降はアメリカ資本で、現在はMondelēz International(アメリカ)傘下です。

米独チョコレート戦争が勃発した経緯

ドイツ資本のリッターシュポルト、合併・買収・スピンオフなど紆余曲折ありましたがアメリカ資本のミルカ、どのように米独チョコレート戦争が勃発したか、整理したいと思います。


経緯
1995年5月

リッターが正方形のチョコレート、リッターシュポルトの商標登録をする。
登録番号2913183
2001年8月

リッターが正方形のチョコレート、リッターシュポルト・ミニの商標登録をする。
登録番号39869970
2010年

当時Kraft Foods(クラフト)が、ダブルチョコレートバーの販売を開始。バーを真ん中で割ると、2つの正方形のチョコレートになる事から、リッターが保有する商標権の侵害を指摘。しかしクラフト側が逆に、リッターの商標登録抹消をCologne District Courtに訴え、泥沼化。
2011年6月

リッターがCologne District Coutで勝訴(31 O 478/10)
http://www.justiz.nrw.de/nrwe/lgs/koeln/lg_koeln/j2011/31_O_478_10_Urteil_20110630.html
2012年3月

Cologne Appeal Courtでは、翻ってクラフトのリッターに対する商標権侵害を認めず(6 U 159/11)
http://www.justiz.nrw.de/nrwe/olgs/koeln/j2012/6_U_159_11_Urteil_20120330.html
その後…

ドイツ連邦裁判所(Bundesgerichtshof = BGH)にリッターが訴えを起こすも棄却

クラフトが、リッターの正方形チョコレートの商標登録の抹消を求め、今度はドイツ連邦特許裁判所(Bundespatentgericht = BPatG)に訴えるが棄却
2016年11月

ドイツ連邦特許裁判所(Bundespatentgericht = BPatG)でクラフトの訴え(3D商標登録の抹消)が認められる(25 W (pat) 78/14)
http://juris.bundespatentgericht.de/cgi-bin/rechtsprechung/document.py?Gericht=bpatg&Art=en&sid=78c87eb0a24214737da2eb693cc03180&nr=30258&pos=1&anz=2&Blank=1.pdf
http://juris.bundespatentgericht.de/cgi-bin/rechtsprechung/document.py?Gericht=bpatg&Art=en&sid=233fc80b7491afa372d94c0ccd5ecc08&nr=28480&pos=1&anz=2&Blank=1.pdf

リッターが、ドイツ連邦裁判所(Bundesgerichtshof = BGH)に持込む
2017年10月

ドイツ連邦裁判所(Bundesgerichtshof = BGH)、リッター勝訴。正方形のチョコレートはリッターのみに認められる(I ZB 105/16, I ZB 106/16)
https://juris.bundesgerichtshof.de/cgi-bin/rechtsprechung/document.py?Gericht=bgh&Art=en&sid=58114a1dce9fa56034f3b1f07089146b&nr=80858&pos=0&anz=2
https://juris.bundesgerichtshof.de/cgi-bin/rechtsprechung/document.py?Gericht=bgh&Art=en&sid=848d50bf1a508723d7d9a25414d382c2&nr=80860&pos=1&anz=2
2018年12月

再びドイツ連邦特許裁判所(Bundespatentgericht = BPatG)で議論され、リッター勝訴(25 W (pat) 78/14, 25 W (pat) 79/14)
http://juris.bundespatentgericht.de/cgi-bin/rechtsprechung/document.py?Gericht=bpatg&Art=en&sid=78c87eb0a24214737da2eb693cc03180&nr=34674&pos=0&anz=2&Blank=1.pdf
http://juris.bundespatentgericht.de/cgi-bin/rechtsprechung/document.py?Gericht=bpatg&Art=en&sid=233fc80b7491afa372d94c0ccd5ecc08&nr=34658&pos=0&anz=2&Blank=1.pdf
2020年5月

過去の訴えとは若干異なる理由を挙げ、懲りずにミルカが、リッターの商標登録抹消を求めて、再びリッターを訴える。
2020年7月

ドイツ連邦裁判所(Bundesgerichtshof = BGH)、リッター勝訴。正方形のチョコレートはリッターのみに認められる(I ZB 42/19, I ZB 43/19)
http://juris.bundesgerichtshof.de/cgi-bin/rechtsprechung/document.py?Gericht=bgh&Art=pm&Datum=2020&nr=108336&linked=bes&Blank=1&file=dokument.pdf
http://juris.bundesgerichtshof.de/cgi-bin/rechtsprechung/document.py?Gericht=bgh&Art=pm&Datum=2020&nr=108339&linked=bes&Blank=1&file=dokument.pdf


2010年から2020年まで、約10年に及ぶ歳月を費やした米独チョコレート戦争ですが、2020年7月にドイツ連邦裁判所(Bundesgerichtshof = BGH)が下した判決により終結。

ドイツ国内において、正方形のチョコレートは引続き、リッターシュポルトのみに認められます。


経緯が非常にごちゃごちゃしているので、結論を一行にまとめちゃいます。

「消費者は、商品が正方形だからリッターシュポルトを選んでいる訳では無い」




約10年かけて導かれた回答です。これだけ読むと、ちょっと哲学入っていますね。


実はドイツが欧州1位、チョコレート輸出量

ヨーロッパで有名なチョコレートだと、あなたはどの国を思い浮かべますか?

大勢の方はベルギー、オランダ、フランス、スイス、イタリアあたりを想像するのではないでしょうか。

しかし実際のところ、ヨーロッパで一番チョコレートを輸出している国はドイツなんです。

ソース元はEU統計局のデータです。

順位チョコレート輸出量EU域内
1位ドイツ640,000トン30%
2位ベルギー300,000トン14%
3位オランダ290,000トン13%
4位ポーランド230,000トン10%
5位イタリア180,000トン8%

ドイツはEUで最もGDPを稼ぎ出し、世界第4位の経済規模を誇るので、そう考えると母数が大きい分、決して不思議では無いかもしれません。

言われてみると、チョコレート以外にアイスクリームも、老若男女問わずドイツ人は好んで食べる印象です。

まとめ

ドイツ国内では、正方形のチョコレートといえばパッケージを見なくても、誰もがリッターシュポルトと答える程、ブランドが浸透しています。

あと判決理由の通りですが、一消費者としてやはり購入の決め手は味ですね。

リッターシュポルトもミルカも、色々な場所で売られているので、米独チョコレート戦争を思い出しながら食べてみて下さい!




Mondelēz Internationalは商標登録にいちゃもんつけていますが、同社保有ブランドTobleroneチョコレートに関して、Poundland社のTwin Peaksが似ていて商標権を侵害しているとして、訴えを起こしています。

またNestlé(ネスレ)は同社のKitKatの形状に似ているとして、Mondelēz(当時のCadbury)を訴えています。

米独チョコレート戦争みたいに泥沼化はしてませんが、何れにせよ、弁護士は仕事がたくさんある事に間違いなさそうです。


最後にリッターシュポルトがドイツ国内で爆発的に知名度を上げる事になった、当時のテレビ宣伝を貼り付けておきます。





※本文は以上です。
もし記事を気に入っていただけたら、是非、SNS等でシェアいただけたらと思います!

テキストのコピーはできません。
タイトルとURLをコピーしました