イギリスでは部屋など自宅の一部を貸す事により得た家賃収入は、年間7,500ポンドまで非課税で確定申告が不要なRent a room schemeがあります。
直訳すると「部屋貸しスキーム」、空いている部屋を有効活用し、上手く行けば収入を得る事ができます。
「スキーム」といっても特別な行政手続きは不要で、既に自分が住んでいる物件の空き部屋を利用する事から、新規事業と異なり(初期)投資コストがほとんどかからず、簡単に始められる点は魅力的です。
本記事では主に賃貸人の視点で、英国Rent a room schemeとは、メリット・デメリット、注意点などをまとめてみました。
なお低所得者向けの住宅補助(Housing Benefit)やユニバーサル・クレジット(Universal Credit)等の社会保障給付を受けていない世帯を想定しています。
Rent a room schemeとは
1992年にイギリスで導入されたRent a room schemeでは、空き部屋・空きフロア等自宅の一部を貸す事により得た家賃収入に対し、一定の非課税枠が設けられました。
英国2005 年事業・その他所得税法で確認してみると、執筆時点では年間7,500ポンドの非課税枠です。
Income Tax (Trading and Other Income) Act 2005
Part 7 Income charged under this Act: rent-a-room and qualifying care relief
CHAPTER 1
RENT-A-ROOM RELIEF
789 The individual’s limit
(1) For the purposes of this Chapter an individual’s limit for a tax year depends on whether the individual meets the exclusive receipts condition for the tax year (see section 790).
(2) If the individual does, the individual’s limit for the tax year is the basic amount for the tax year.
(3) If the individual does not, the individual’s limit for the tax year is half that amount.(4) The basic amount for a tax year is [F5£7500] .
引用元リンク:https://www.legislation.gov.uk/ukpga/2005/5/contents
(5) The Treasury may by order amend the sum for the time being specified in subsection (4).
当該スキームにより非課税枠を使うには、一定の条件を満たす必要があります。
以下、順に見ていきます。
貸し手になれる人は誰か
- 物件のオーナー(所有者)
- 物件のテナント(貸借人)
物件のオーナーとテナントどちらも、Rent a home schemeの貸し手になる事ができます。
必ずしも、物件の所有者でなくても問題ありません。
なおRent a room schemeに限定される訳ではありませんが、同スキームによる借り手はロッジャー(Lodger)と呼ばれます。日本語でLodgerは下宿人、間借り人と訳されています。
テナント(Tenant)とロッジャー(Lodger)はどちらも物件(部屋)の借り手ですが、両者間の違いは、賃貸人と同じ物件に住んでいるか否かです。
ロッジャーは、不動産業者やオンライン仲介サイト・App(大手SpareRoomほか)、SNS等で探せます。
物件(部屋)の基準
- 賃貸人の主たる居住物件である事
- 貸し出す部屋は、家具付き(Furnished)
- オフィスなど事業所目的の利用は不可
Rent a room schemeは賃貸人の主たる居住物件である必要がある事から、必然的にイギリス国内を主たる居住地としているオーナーの物件になります。
回りくどい表現ですが、要はイギリス国内にある物件です。
また別荘などのセカンドハウス、分割して複数のフラット(日本でいうマンション)に改築した場合、同スキームの対象外です。
日本ではあまり見かけませんが、イギリスでは世帯家族数に関わらず、つまり1人暮らし向けであろうが家族向けであろうが、家具付き(Furnished)の賃貸物件が一般的です。
理論的には家賃に家具全般のリース料的なものが含まれていると言えます。勿論、家具無し(Unfurnished)物件もあります。
話が逸れますが、イギリスの家具付き賃貸物件は、引越しが楽で個人的には結構好きです。同じヨーロッパですが、現在住んでいるドイツでは逆に家具無し物件が普通で、電球やキッチン台すら無い場合もあり、渡独時はイギリスとの違いにかなり戸惑いました。
貸出の契約期間
Rent a home scheme貸出の契約期間は、2通りあります。
- Periodic(無期限賃貸借契約)ある特定の期間が無期限に繰り返される契約
- Fixed term(定期賃貸借契約)日・週・月・年など予め期間を定める契約
当初、何も貸出の期間に合意しないと、自動的にPeriodic(無期限賃貸借契約)になります。
解約する方法
契約期間に関わらず、賃貸人と下宿人がお互いに合意すれば、いつでも解約が可能です。
それ以外の場合は、賃貸人と下宿人何れかが、契約の相手方に退去通知を出す必要があります。
メリット・デメリット
続いてRent a home schemeのメリット・デメリットです、思いつく限りリスト化してみました。
メリット
- 追加収入を得る事ができる
- 年間7,500ポンドまで非課税・確定申告不要
- 下宿人がBasic Protectionを持たない場合、賃貸契約の解約が容易
- 賃貸人の主たる居住物件なので、自分寄りにハウス・ルールを課す事が可能
- セキュリティ(1人暮らしに不安の場合等)
- (異文化)交流(身近な話し相手、例えば海外から留学生を受入れる他)
非課税枠は物件単位なので、例えば夫婦やパートナーなど2人でスキームを適用する場合、1人あたり非課税枠は半分の年間3,750ポンドまでになります。
なお同スキームが導入された1992年から非課税枠は年間4,250ポンドでしたが、2016年4月6日から同枠が年間7,500ポンドに増額されました。
Rent a Room relief increase
引用元リンク:https://www.gov.uk/government/publications/rent-a-room-relief-increase/increasing-rent-a-room-relief
Published 8 July 2015
General description of the measure
This measure will increase the level of Rent a Room relief, which provides for tax-free income that can be received from renting out a room or rooms in an individual’s only or main residential property, from £4,250 to £7,500 per year. It also increases the level if an individual rents out rooms in a guest house, bed and breakfast or similar, providing that it is their main residence. The increase to the Rent a Room limit will apply from 6 April 2016.
賃貸契約の解約が容易というのは、非常にポイントが高いかと思います。
なおイギリスの課税年度は、毎年4月6日から翌年4月5日です。
デメリット
- 人災(物理的なものは、ある程度保険でカバー可能)
- プライバシー
- 物件や契約内容次第では、キッチンやバスルームを共有
- 下宿人がBasic Protectionを持つ場合、賃貸契約の解約に裁判所の命令が必要になるリスク
(但しBasic Protectionに関しては契約時点で、ある程度賃貸人がコントロール可能) - 1人暮らしの場合、カウンシル税の25%割引(a single person discount)が適用除外に
- 費用を家賃収入と合算できない(後述)*
- 追加の光熱費や保険
下宿人がどのような人かは、実際に生活をしてみないと分かりません。またプライバシーは、気になる人は致命的かと思います。
カウンシル税(Council Tax)とは、日本の住民税みたいなものです。
諸々追加でかかる光熱費や保険等のコストは、現実的には賃貸費用に含める事がほとんどかと思います。
イギリスだとバスルームが、2つ以上ある物件も結構ありますが、それでも下宿人との共有スペースは少なからずできてしまいます。
メリットと表裏一体と言えますが、それなりにデメリットもあります。
その他、注意点
食事や洗濯など有料でサービスを下宿人に提供する場合、賃貸収入と合算してカウントされます。
モーゲージなど借入金がある、家財保険に入っている、また賃貸物件の場合は、それぞれ契約上空き部屋を第三者に貸し出して問題が無いか確認する必要があります。
利害関係者に無断で、空き部屋を貸し出す事はできません。
2人超に部屋を貸し出すと、House in Multiple Occupation (HMO)に物件が該当する可能性があり、追加で安全基準他を満たす事が求められ、ライセンスが必要な場合があるので注意が必要です。
賃貸収入が、非課税の閾値を超えた場合
本記事の執筆時点で、Rent a home schemeの非課税枠は年間7,500ポンドですが、賃貸収入が閾値を超えた場合、確定申告(Tax return)をしなくてはなりません。
確定申告をする際、2つの選択肢があります。
- Rent a home schemeを適用(opt in)、使える非課税枠を享受する
- Rent a home schemeを非適用(opt out)、不動産収入欄で損益を算出する
オプト・インするかオプト・アウトするかは、年度ごとに選択可能です。
Rent a home schemeを運用する事による費用(リフォームや内装工事、家具設備ほか)が、非課税枠を超える場合は、オプト・アウトした方がお得になる場合が多いかと思います。
オプト・インすると、付随する費用を計上できず、家賃収入と合算できなくなる(前述のデメリットで挙げた1つ)ので、年度ごとに判断する必要が出てきます。
オプト・イン | 例 |
---|---|
家賃収入 | 10,400 |
非課税枠 | 7,500 |
差額 | 2,900 |
税金(20%と仮定) | 580 |
税率20%は、課税所得が12,501-50,000ポンド時を前提条件としています。課税所得が12,500ポンド以下の場合は0%、50,001-150,000ポンド時は40%、150,000ポンド超は45%です。
オプト・アウト | 例1 | 例2 | 例3 |
---|---|---|---|
家賃収入 | 10,400 | 10,400 | 10,400 |
費用 | 2,000 | 7,500 | 9,000 |
収支 | 8,400 | 2,900 | 1,400 |
税金(20%と仮定) | 1,680 | 580 | 280 |
オプト・インした場合との差 | +1,100 | +/-0 | -300 |
オプト・アウトの例1(費用が2,000ポンド)だと、オプト・インした場合の3倍近く税金がかかります。
一方で、オプト・アウト例2(費用が7,500ポンド)では、アプト・イン時と同じ税額に。オプト・アウト例3(費用が7,500ポンド超)の場合は、オプト・アウトした方が税金上メリットがあります。
万が一収支が赤字の場合、オプト・アウトしていれば翌年に繰越できます。詳細は、英国歳入関税庁(HM Revenue and Customs = HMRC)の公式サイトでご確認下さい。
最後に
賃貸人の主たる居住物件というのがポイントでしょうか、近年ではAirbnb(エアビーアンドビー)等で見られるように民泊が注目され、日本では2018年6月から「住宅宿泊事業法(民泊新法)」が始まりました。
ただ英国Rent a home schemeと日本の民泊新法は、結構内容が異なります。以下、物凄く簡単に比較したものです、総じてイギリスの方が柔軟性があります。
イギリス Rent a home scheme | 日本 住宅宿泊事業法 | |
---|---|---|
許認可 | 不要 | 届出 |
住専地域での営業 | 可能 | 可能 |
営業日数の制限 | 制限なし | 年間180日以内 |
非課税枠(年間) | 7,500ポンド | 20-38万円 |
言葉通り空き部屋の有効活用、また何よりも先行投資が少なく、比較的低リスクで始める事ができる副業としては興味深いです。
わたしのまわりでは旅行者向けというよりは、リタイヤしたり子どもが独立した世帯が、学生向けに部屋を貸し出す印象です。
二度と会わないかもしれない(短期)旅行者よりは、学校が続く限り定期的に会う、そして身元がはっきりしている学生の方が、安心感はありそうです。
最後にもう一度、英国Rent a home schemeのメリット・デメリットを載せておきます。
メリット
- 追加収入を得る事ができる
- 年間7,500ポンドまで非課税・確定申告不要
- 下宿人がBasic Protectionを持たない場合、賃貸契約の解約が容易
- 賃貸人の主たる居住物件なので、自分寄りにハウス・ルールを課す事が可能
- セキュリティ(1人暮らしに不安の場合等)
- (異文化)交流(身近な話し相手、例えば海外から留学生を受入れる他)
デメリット
- 人災(物理的なものは、ある程度保険でカバー可能)
- プライバシー
- 物件や契約内容次第では、キッチンやバスルームを共有
下宿人がBasic Protectionを持つ場合、賃貸契約の解約に裁判所の命令が必要になるリスク
(但しBasic Protectionに関しては契約時点で、ある程度賃貸人がコントロール可能) - 1人暮らしの場合、カウンシル税の25%割引(a single person discount)が適用除外に
- 費用を家賃収入と合算できない(後述)*
追加の光熱費や保険
※本文は以上です。
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