ドイツで音楽が停止した日、ラブパレードの一新を図る動き。

ドイツで音楽が停止した2010年7月24日、ラブパレード(Loveparade)はドイツ現代史における最悪の事故が起きた事から、1989年以降続いていた歴史に幕を閉じました。

今般、古くて新しい運営団体”Rave the Planet GmbH”が新パレード(Die neue Parade)の開催を目論んでいます。

本記事では、新パレード開催を計画している非営利団体”Rave the Planet GmbH”に加え、ラブパレード(Loveparade)とは、黎明期・最盛期・過渡期に分けた簡単な説明と、やや複雑な主催者及びスポンサー事情について触れたいと思います。

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ラブパレード(Loveparade)とは

ラブパレード(Loveparade)は、1989-2010年まで毎年7月にドイツで行われていた、テクノ音楽フェスです。

クラブによってはバウンサーにより、入場者の選別をしていますが、ラブパレードは誰でも参加可能でした。


2006年まではベルリンで、その後はルール地方(Ruhr)で開催されていましたが、2010年デュイスブルク(Duisburg)におけるイベントで、21人が死亡・500人超が怪我をする事故が起き、ラブパレードはその歴史に幕を閉じました。

https://www.spiegel.de/international/germany/analysis-of-the-love-parade-tragedy-the-facts-behind-the-duisburg-disaster-a-708876.html

黎明期

ラブパレードはDJのDr Motte(本名Matthias Roeingh)が、音楽を通した平和へのデモ活動としてスタートしたもの。


毎年異なるスローガンがありますが、初回の“Friede, Freude, Eierkuchen”は、聞いた事がある人も多いかと思います。

スローガンは「平和、喜び、パンケーキ」という意味です。



ドイツでは憲法と呼ばれる基本法(Grundgesetz = GG)の第8条により、集会(デモ)の自由が認められています。

Grundgesetz für die Bundesrepublik Deutschland

Art 8
(1) Alle Deutschen haben das Recht, sich ohne Anmeldung oder Erlaubnis friedlich und ohne Waffen zu versammeln.
(2) Für Versammlungen unter freiem Himmel kann dieses Recht durch Gesetz oder auf Grund eines Gesetzes beschränkt werden.

引用元リンク:https://www.gesetze-im-internet.de/gg/BJNR000010949.html


1989年7月1日の初回デモは4人のDJ、3台のフロート(サウンドシステムを積んだ車両)、そして150人程度の参加者(ダンサー)等が、西ベルリンにある通りでパレードを行いました。


1989年11月9日ベルリンの壁崩壊に先立ち、新たな息吹が芽生えた瞬間です。

最盛期

Dr Motteが主催していたラブパレードは、年々参加者が増加しメディアからも注目されるようになり、いつしか世界最大規模のテクノ音楽フェスと言われまで成長します。

初回から10年後にあたる1999年には、参加者が約1.5百万人を記録し最盛期を迎えます。



世界から多くの人がラブパレードに参加するにつれ、音楽を通した平和へのデモ活動という当初の目的より、商業化や観光イベント化が指摘されはじめ、またラブパレード後のゴミ及びトイレなど環境問題が生じます。

ドイツの法律では、デモ活動に係るセキュリティやゴミ清掃の費用は、デモ主催者では無く州政府の負担です。

過渡期

2001年ドイツ連邦憲法裁判所は、ラブパレードが政治的なメッセージを届けておらず、デモ活動として認めない(純粋に音楽イベントである)判決を出し、大きな転換期を迎えました。
https://www.bundesverfassungsgericht.de/SharedDocs/Entscheidungen/DE/2001/07/qk20010712_1bvq002801.html;jsessionid=AEFECD006656A89A797C3E8D67BEF013.2_cid386


商業化されていた事で、イベントの参加者を増やそうとする意図(本来のデモ活動は、趣旨に賛同した人が自発的に集まるもの)が働いていた点も、判決で指摘されています。


この裁判所の判決により、ラブパレード開催による道路封鎖や交通整理、セキュリティ、ゴミ清掃等の費用は、州政府ではなくイベント主催者が負担する事になりました。



その後、ラブパレードはデモ活動では無く音楽イベントとして2003年まで開催されましたが、主催者側の資金難により2004年と2005年はイベントがキャンセルされています。

Dr Motte自身、イベントが商業化され過ぎた事に嫌気がさしていた為、そして何よりも新たなスポンサー企業McFit(フィットネスクラブ)と方針やプログラム内容に折り合いがつかなくなり、2006年ラブパレードの運営から離脱しています。同様に一部DJやコアなテクノファンらも、これを機に参加しなくなったと言われています。


ラブパレードはDr Motteが去った2006年のベルリンを最後に、その後ルール地方で行われ、2010年に開催のデュイスブルクで、21人が死亡・500人超が怪我をするドイツ現代史における最悪の事故が起き、その歴史に幕を閉じました。

なおデュイスブルク(エッセンを含むルール地方)は、2010年の欧州文化首都(European Capital of Culture = ECoC)に選出されていました。

欧州連合知的財産庁に商標登録

“LOVEPARADE”という言葉は、欧州連合知的財産庁(European Union Intellectual Property Office = EUIPO)に商標登録(トレードマーク)されています。

申請日2007年6月28日
登録日2008年3月4日
登録者Loveparade Berlin GmbH Medien-, Produktions-, Verwertungs- und Veranstaltungsgesellschaft
登録者ID34597
登録先European Union Intellectual Property Office (EUIPO)
登録番号006048557
文字商標LOVEPARADE
登録分類Clothing Products (25)
Education and Entertainment Services (41)
Computer Product, Electrical & Scientific Products (9)


Loveparade Berlin GmbHは、”Loveparade”というブランドを保護する目的でMatthias Roeingh(Dr Motte)、Ralf Regitz、Sandra Molzahn、William Röttger、Andreas Scheuermannらにより、1996年に設立された会社です。

しかし資金難による破産を避ける為、2005年11月にブランドを売却。以降、ドイツRSG GROUPの設立者Rainer Schaller氏が、Loveparade Berlin GmbHの単独パートナー(所有者)になっています。

RSG GROUPの傘下企業McFitが、2006-2010年ラブパレードのメインスポンサーでした。


新パレード(Die neue Parade)

2010年に起きた事故から10 年近く経過、ドイツにおけるテクノ・ダンス音楽文化を絶やさず、またハイ・カルチャー(”Hochkultur”)として社会に認識される事を目的に、Dr Motteは非営利団体”Rave the Planet GmbH”を立上げクラウドファンディングにより2021年7月10日(土曜日)新パレード(Die neue Parade)の開催を目論んでいます。

クラウドファンディングの目標調達金額は1.5百万ユーロ、2020年1月13日から開始して、Rave the Planet GmbH公式サイトによると、本記事執筆時点では0.39百万ユーロ(進捗率26%程度)を獲得しています。

因みに、この目標調達金額ですが、本家(Dr Motteが運営していた時代)ラブパレードで至上最大の人数が集まったと言われている1999年のイベント参加人数1.5百万人が元になっています。

必ずしも目標に達しないと、新パレードが中止される訳ではありません。


商業化に嫌気がさしてラブパレードを去った経緯から、Dr Motteは企業等のスポンサーから資金援助を受けても、テクノ文化に関係性が認められない企業に関しては、パレードに広告は出さないとしています。


補足するとドイツ最高裁の1つである、ドイツ連邦税務裁判所からVAT(付加価値税)の観点では、「テクノは音楽」というお墨付きを得ています。

つまりクラシック音楽のコンサート同様、クラブでのテクノシーンはハイ・カルチャー(”Hochkultur”)として国が認めた事を意味します。



新パレード開催に加えて、”Rave the Planet GmbH”は「ドイツのテクノ音楽やクラブ文化」をユネスコ国際連合教育科学文化機関)の無形文化遺産登録に向けた活動もしています。


“Rave the Planet GmbH”は、ラブパレードの商標登録を保有していないので、仮に新パレードの開催が決定しても、ラブパレードという文字は現在の商標登録者の許可無しに使う事はできません。


過去の経緯を鑑みると、現在の商標登録者とDr Motteの間には、相容れないものがあり文字商標の使用は難しそうな印象です…


Leipziger通りに面するMall of Berlinに設置された、”Rave the Planet”の開催とクラウドファンディングを宣伝するミニチュア・モデルのYouTubeです。

実はモールが建つ前には、トレゾア(Tresor)という老舗クラブがあった特別な場所です。

最後に

ラブパレード(Loveparade)について、黎明期・最盛期・過渡期それぞれの簡単な説明と主催者及びスポンサー事情についての記事でした。


新パレード(Die neue Parade)については、Dr Motteと仲違いしたRSG GROUPやMcFitとの兼合いに加え、コロナ(COVID-19)の状況が落ち着いているかも気になるところです。



今のところ”Rave the Planet”運営側は、許可が下りれば2021年7月10日(土曜日)新パレード(Die neue Parade)を予定していますが、ドイツで音楽が停止した2010年7月24日より再びパレードが催される日は実現するのでしょうか。

2010年デュイスブルクで行われたラブパレードとは違う主催者で場所も異なりますが、何れにせよ参加者の安全面を第一に考えて運営される事を願うばかりです。





※本文は以上です。
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