「テクノは音楽」、Berghainにドイツ連邦最高裁が判決を下す。

バッハ、ベートーヴェン、ブラームス、メンデルスゾーン、ワーグナー、シューマンをはじめ、多くの偉大な作曲家を輩出してきたドイツ。

クラシック音楽でドイツは有名ですが、テクノ大国である点も忘れてはなりません。


最高裁判所(の1つ)であるドイツ連邦税務裁判所(Bundesfinanzhof = BFH)は、2020年6月10日付けで発表した判決において、「テクノは音楽」という原告ベルクハイン(Berghain)の主張を認めました。


本記事ではドイツ連邦税務裁判所の判決内容が意味するもの、また原告ベルクハイン(Berghain)について在独者である筆者が説明したいと思います!

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「テクノは音楽」が意味するもの

「テクノは音楽」が意味するものですが、判決によりドイツのクラブは、入場料金に際し、今までVAT(付加価値税)は19%の標準税率が課されていましたが、今後は7%の軽減税率となります。


以下はドイツ売上税法(Umsatzsteuergesetz)抜粋です、軽減税率の箇所を確認してみます。

Umsatzsteuergesetz (UStG)

§ 12 Steuersätze

(1) Die Steuer beträgt für jeden steuerpflichtigen Umsatz 19 Prozent der Bemessungsgrundlage (§§ 10, 11, 25 Abs. 3 und § 25a Abs. 3 und 4).
(2) Die Steuer ermäßigt sich auf sieben Prozent für die folgenden Umsätze:

7. a)
die Eintrittsberechtigung für Theater, Konzerte und Museen, sowie die den Theatervorführungen und Konzerten vergleichbaren Darbietungen ausübender Künstler

引用元リンク:https://www.gesetze-im-internet.de/ustg_1980/



ドイツでは売上税法セクション12の7.a)にある通り、シアター、コンサート、ミュージアムなど文化的なイベントの入場料金に関しては、一部で軽減税率である7%が適用されます。


VAT(付加価値税)とは何か、各国における具体的な品目の税率が何か等興味をお持ちの方は、別途投稿済み以下記事及びリンク先をご確認下さい。


因みにドイツでは標準税率と軽減税率の差は現在12%ですが、1968年1月1日時点では5%(標準税率10%、軽減税率5%)でした。

裁判の争点

標準税率と軽減税率のどちらが適用されるかでしたが、言葉を替えるとDJがまわすテクノやハウスイベントはコンサートと言えるか、またDJ自身はミュージシャンか否か、税当局と原告が争いました。

Ermäßigter Umsatzsteuersatz für Techno- und House-Konzerte

29. Oktober 2020 – Nummer 049/20 – Urteil vom 10.06.2020
V R 16/17

Eintrittserlöse für Techno- und House-Konzerte sind als Erlöse aus „Konzerten vergleichbare(n) Darbietungen ausübender Künstler“ steuersatzermäßigt, wenn die Musikaufführungen aus der Sicht eines „Durchschnittsbesuchers“ den eigentlichen Zweck der Veranstaltung darstellen. So entschied der Bundesfinanzhof (BFH) mit Urteil vom 10.06.2020 (VR 16/17).

引用元リンク:https://www.bundesfinanzhof.de/de/presse/pressemeldungen/detail/ermaessigter-umsatzsteuersatz-fuer-techno-und-house-konzerte/



黄色の下線部の通り、テクノやハウスイベントは「アーティストによるパフォーマンスが行われ、コンサートと同等のもの」とドイツ連邦税務裁判所により判断されています。

ゆえに前述したドイツ売上税法で軽減税率について明記されたセクション12の7. a)が適用される事になります。


ザクセン州の租税裁判所(Finanzgericht = FG)は、クラブイベントの中心は音楽パフォーマンス(コンサート)ではなく、パーティやダンスと判断、また売上に占める割合が入場料金よりドリンク代等の方が大きかった事もあり、入場料金は軽減税率である7%でなく、標準税率の19%が適当という結論(5 K 1811/12)を、2016年6月6日に出していました。


しかしドイツ連邦税務裁判所は2020年6月10日付けで発表した判決で、入場料金とドリンク代の大小は、コンサートかダンスイベントかを判断するのに決定的な要因にはならないと指摘。


歌い手や楽器奏者の有無に関わらず、客は音楽やDJのパフォーマンスを目的にテクノやハウスクラブを訪れ、またDJは単にまわしているだけでなく、新たな音楽を創り奏でているという説明もなされています。

DJが使用するターンテーブルや、ミキシング・コンソール(ミキサー)、CDプレーヤー等は楽器として認識される等、原告側の主張が最高裁により認められた瞬間でした。

原告ベルクハイン(Berghain)とは

ベルクハイン(Berghain OstGut GmbH)は、ベルリンにあるクラブです。

テクノ界では世界的にみても伝説的なクラブの1つで、ドイツにおけるテクノシーンにおいて欠かせない存在です。

Ostbahnhof駅から徒歩10分弱で、線路を挟んでベルリンの壁があるイーストサイドギャラリー(East Side Gallery)の反対側に位置しています。


なおドイツ語読みは「ベルクハイン」で、「グ」と濁りません。


旧西ドイツ側“Kreuzbergと旧東ドイツ側“Friedrichshainのボーダー近くに位置していた事から、両方の末尾をとったのが“Berghain”の由来です。

因みにドイツ語の”Berg”は「山」、”Hain”は「グルーヴ」という意味です。



ベルクハイン自体は2004年に、新たな名前でMichael Teufele氏とNorbert Thormann氏により(再)オープンされましたが、前身は”Ostgut”(1998-2003)や”Snax”(Ostgutに構えるまでは、様々な場所で開催されていたゲイ・クラブ)です。

“Ostgut”は、現在”Mercedes-Benz Arena”(旧称”O2 World”)が位置する場所で営業をしていましたが、再開発事業の影響で店仕舞いしています。


テクノは、1980年代にアメリカ合衆国のミシガン州デトロイトで生まれたと言われています。西ドイツには、ベルリンの壁崩壊とともに1980年代後半にきたとされています。

東西ドイツが統一され、自由や享楽主義を謳歌する激動で混沌とした時代、テクノがドイツのポップカルチャーとして根付き発展していく様が、ベルクハインの歴史と重なるものがあるかと思います。



ベルクハインは3つのフロアがあります(以下の階数は日本式)。日本の2階が、ドイツでは1階になります。

  • 2階のメインフロア(ダーク、ハードコア)
  • 3階のパノラマバー(ハウス、よりソフト。メインストリーム向け)
  • 1階のゾイレ(エクスペリメンタル)



OstgutやSnax時代から続き、ゲイ・クラブ(Lab.oratory)も敷地内にあります。その為、ベルリンにあるクラブの中でも、ベルクハインのLGBTポリシーは際立っているものがあります。




またベルクハイン建物内は写真撮影が一切禁止されていて、フロントのドアを開けて中に入ると、ドイツ語・英語・フランス語・ロシア語で、その旨注意書きされたサインが目に入ります。

もし写真を撮ったのがばれたら、バウンサーにより即刻退場させられ、クラブには出禁(ドイツ語で”hausverbot”)となります。

ベルクハインで起こった全ての事は、ベルクハイン内に留まる、というクラブ・ポリシーが貫かれていて、建物内での記憶(残っていれば)やゴシップ、秘密ごとは、決して外に漏れないという暗黙の了解が成り立っているのも、魅力的な点の1つです。


本記事のアイキャッチ画像は、ベルクハインです。この新古典・社会主義建築物は1953-1954年に建てられ、スウェーデンの大手電力会社バッテンフォール(Vattenfall)が発電所として使用していました。

天井の高さは、各フロア9メートル程度あります。

発電所のような工業的な建築物は異空間というか、どこか惹かれるものがあります。

最後に

ドイツ連邦税務裁判所の判決を要約すると、「テクノは音楽で、DJはミュージシャン」なのでクラブイベントはコンサートと言え、入場料金は軽減税率が適用される事になります。


クラブ界のあるあるというか、有名過ぎて2019年に『Berlin Bouncer』というタイトルで映画化された程ですが、ベルクハインには最も恐れられているバウンサーSven Marquardt氏がいます。


バウンサーとは用心棒みたいなもので、問題を起こしそうだったりクラブに相応しくない人物の入場を瞬時に判別して、入場者を選定します。

ベルクハインは入場制限が無茶苦茶厳しい事でも有名です。数時間待った挙句、入れないと非常に残念な気持ちになりますが、我こそはというあなたは是非挑戦されてみてはいかがでしょうか!





※本文は以上です。
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