海外欧州に住むなら無視できない人工妊娠中絶の事、30か国の法律は

EU27か国にノルウェー・イギリス・スイスを加えた30か国の内、2か国は女性本人の要望による人口妊娠中絶を認めていません。

EU域内では「人・物・資本・サービス」に関する移動の自由が、国を跨いで保障されていますが、必ずしも全て平仄が取れている訳では無く、加盟国間でばらつきがあったりします。

人口妊娠中絶に関しては国ごとに基準が異なり、ヨーロッパでは統一された法律が存在していません。

法律で認められていても、国によっては産婦人科医の個人的な信仰により、中絶手術が断られる事もあり注意が必要です。


本記事では、人工妊娠中絶に係る女性の権利や自己決定権については触れず、事実としてヨーロッパ各国の状況をまとめてみたものです。

海外移住・就職・留学、また国際結婚などを検討されていたり、欧州在住者の方の参考になれば幸いです。

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本人の要望で中絶ができないEUの2か国

EU27か国の内、女性本人の要望による人口妊娠中絶を認めていない2か国は、マルタとポーランドです。

言わずもがな両国を批判したり、他のEU諸国に対して優劣をつけるものではなく、あくまでも情報の共有が目的です。

マルタは、如何なる理由でも中絶禁止

マルタは地中海にある、イタリアのシチリア島の南に浮かぶ島です。

マルタ語に加え英語が公用語のマルタは語学留学先として、またリゾート・観光地としても日本から人気を博しているかと思います。

マルタでは国民の98%近くがカトリックと言われ、2011年まで離婚する事は違法でした。


ヨーロッパで人口妊娠中絶に最も厳格であるマルタでは、例え母親の生命や健康状態に危険が及ぶ可能性があったり、胎児異常の可能性が高い場合、近親相姦、望まない妊娠(強姦など)他であっても一切の例外は無く、中絶をした本人や補助をした人(医師など)は、最長3年の懲役が科される可能性マルタ共和国刑法第241条他)があります。

ヨーロッパに住んでいると、わりとニュースで見聞きしたりするので、とにかくマルタは中絶に厳しい、言い換えれば信仰心の厚いカトリックの国として有名ですが、あまり日本(語)では報じられていない印象です。

平時においては賛否両論あるとは言え、マルタ国外で人口妊娠中絶の手術を受ける選択肢が女性にありましたが、コロナ禍による海外渡航規制等により、海外のクリニックに行けず問題化しているケースが出てきているようです。

これは正直、無視する事ができないリスクと言っても過言ではないかと思います。

ポーランドは、ほぼ全ての中絶が違憲

ポーランドでは2020年10月22日に憲法裁判所が下した、「胎児異常でも、中絶する事は違憲」との判決により、実質的にほぼ全ての人口妊娠中絶が禁止されています。

既に中絶について厳しい立場を取っているポーランドでは、中絶する理由の大半が胎児異常だからです。

Poland to implement near-total ban on abortion imminently
Shaun Walker
Wed 27 Jan 2021

The ruling, handed down by the constitutional tribunal in October, found that terminating pregnancies due to severe foetal abnormalities is unconstitutional. Poland already has some of the strictest abortion laws in Europe, and most of the small number of legal abortions that take place in the country are cases of foetal defects.

Once the ruling goes into effect, abortion will only be permitted in cases of rape, incest or when the woman’s life is in danger.

引用元リンク:https://www.theguardian.com/world/2021/jan/27/poland-to-implement-near-total-ban-on-abortion-imminently


ポーランドでは強姦、近親相姦、母親の生命及び健康にリスクがある場合のみ、人口妊娠中絶が認められます。

女性本人の要望で中絶する事はできません。

ヨーロッパ30か国を比較したリスト

先にマルタとポーランドに触れましたが、EU27か国にノルウェー・イギリス・スイスを加えた30か国の中絶事由適用可否をリスト化しました。

  • 〇 = 明示的に法律で定義
  • △ = 医学・健康事由に含まれると解釈
  • × = 明示的に法律で禁止、或いは定義されていない


中絶事由は①本人の要望、②その他広義な社会的背景の2つに大別できます。

〇が多いに越したことはありませんが、基本的には①が適用されているかが重要です。

因みにフィンランドは①が×ですが、②が〇ばかりで様々な社会的背景による中絶が認められています。

本人の要望社会経済的生命リスク健康リスク性的な暴行
オーストリア××
ベルギー××
ブルガリア××
クロアチア×
キプリス×
チェコ××
デンマーク
エストニア×
フィンランド×
フランス××
ドイツ×
ギリシャ×
ハンガリー×
アイルランド××
イタリア××
ラトビア×
リトアニア××
ルクセンブルク××
マルタ×××××
オランダ××××
ノルウェー
ポーランド××
ポルトガル×
ルーマニア××
スロバキア××
スロベニア××
スペイン××
スウェーデン××
イギリス
スイス×


ソース元は、アメリカ合衆国ニューヨーク州に拠点を構えている非営利団体CENTER for REPFORUCTIVE RIGHTSです。

女性の社会進出ランキングの上位常連である北欧のデンマークとノルウェー、フィンランドはかなり中絶に寛容な立場を取っている事が分かります。


逆にマルタ、ポーランドに加え、カトリックの人口割合が高いとされるアイルランド、イタリア、ルーマニア、スロバキア、スペインなどは保守的と言えます。


中でもアイルランドは、カトリック教会が強い影響力を持っているとされ、EU内でもかなり厳しい中絶基準を課していた国です。

アイルランドでは国民投票による憲法改正で2018年にHealth (Regulation of Termination of Pregnancy) Act 2018が施行されるまで、中絶をすると最長14年の懲役が科される可能性がありました。

Health Act 2018では中絶は妊娠12週まで、それ以降は母親の健康状態に危険が及ぶリスクや、胎児異常の可能性がある場合のみ認められるようになりました。



イタリアは1978年に中絶が認められるようになった後も、医者は個人的な信条を理由に施術を拒否できる権利を有している為、中絶をしてくれる医者を求めて隣国にいく妊婦さんが結構多いようです。


International Women’s Health Coalitionが2018年に発表した記事によると、イタリアの産婦人科医の内7割が、同国保健省に中絶反対の意を表明しているとあります。

Unconscionable
WHEN PROVIDERS DENY ABORTION CARE

In Italy, for example, 70 percent of obstetriciangynecologists have registered with the Italian Ministry of Health as objectors to abortion.

引用元リンク:https://31u5ac2nrwj6247cya153vw9-wpengine.netdna-ssl.com/wp-content/uploads/2018/06/IWHC_CO_Report-Web_single_pg.pdf



カトリックの総本山ヴァチカン市国は、イタリアの首都ローマに位置していますね。

法的に認められていても、カトリックでは中絶は殺人同様と見なしている為(Catechism of the Catholic Church (CCC) 2270-2275)、信仰と女性の権利や自己決定権との間で、簡単に答えが出ない問題を抱えています。

最後に

海外欧州に住むなら無視できない、人工妊娠中絶の事についての記事でした。

EU27か国にノルウェー・イギリス・スイスを加えた30か国の内、以下の2か国は頭の片隅に入れておいた方が良いかもしれません。

  • マルタは、一切の例外無く中絶が禁止
  • ポーランドは、ほぼ全ての中絶が違憲


要点は両国とも、女性本人の要望で中絶する事が認められていない事です。


因みに同性婚に関して、マルタでは2017年から認められていますが、ポーランドでは1997年に憲法上禁じられLGBT+にも厳しい国の1つとなっています。


ジェンダー・ギャップや男女平等指数など、女性の社会進出に関するデータを目にする機会が年々増えているかと思いますが、人口妊娠中絶についてはあまり見かける機会が無いので、今回まとめてみました。

海外ヨーロッパに住むには、宗教の理解が欠かせないと改めて認識させられました。





※本文は以上です。
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