イギリスでは、イングランドとウェールズが2014年3月に、スコットランドが同年12月に、北アイルランドは遅れる事2020年1月に、それぞれ同性婚に係る法律が施行されました。
LGBT先進国の欧州で、イギリスは決して同性婚の合法化が早かったという訳ではありませんが、それでも2020年1月を以て、全4つの国(管轄地域)で同性婚が認められるようになりました。
LGBTや、性別及び婚姻状況等による不当な差別に対する理解が深まる中、広く普及している以下の敬称をそもそも使わない選択(No title)をする人々が、様々な場面で確実に増えてきている印象です。
- Mr(全ての男性)
- Ms(全ての女性)
- Miss(未婚の女性)
- Mrs(既婚の女性)
またNo title(全ての人が対象)に加え、1970年後半から”Mx”という新たな敬称が普及し始めました。
本記事では、”Mx”を始めとするイギリスにおける敬称について、元イギリス在住者が浅く広く整理してみたいと思います。
必ずしも100%正しい、とは言い切れない部分もあるかと思いますので、参考程度に読んで頂けたら幸いです。
“Mx”とは、ジェンダーニュートラルな敬称
“Mx”とは、ジェンダーニュートラルな敬称で「ミクス」と発音します。
性別により何か判断されたくない、或いは敢えて性別を明示する必要性が感じられない等の理由から、”Mx”を敬称に使う人がいます。
オックスフォード英語辞典(Oxford English Dictionaries = OED)には2015年に、”Mx”が追加されました。
Mx1
引用元リンク:https://www.lexico.com/definition/mx
Pronunciation /məks/mɪks/
NOUN
A title used before a person’s surname or full name by those who wish to avoid specifying their gender or by those who prefer not to identify themselves as male or female.
“Mx”は、1970年代後半から使われ始めたと言われています。World Wide Web(WWW)やインターネットができる遥か昔ですね。
OEDのアシスタントエディターであるJonathan Dent氏によると、初めて”Mx”が使われた記録としては、1977年に出版されたアメリカの雑誌Single Parentとの事。
以下は、2015年にリリースされたサンデータイムズ紙の記事で、Dent氏のコメント抜粋です。
The first recorded use of Mx was in Single Parent, the American magazine, in 1977.
引用元リンク:https://www.thetimes.co.uk/article/now-pick-mr-mrs-miss-ms-or-mx-for-no-specific-gender-t2rb5bh62rs
冒頭で説明したイギリス国内における同性婚の合法化に沿ってか、辞書に載る程普及した為か、2015年にはパスポートや運転免許証、一部の銀行、ロイヤルメール等で”Mx”の敬称が選択できるようになりました。
写真付きIDで身分証明書として使われる事が多い、パスポートや運転免許証で”Mx”が選択可能になり、実質的に英国政府が”Mx”という敬称を公認した大きな出来事だったと言えます。
なお”x”はミックスではなく、ワイルドカードを意味するものとされています。
従来から普及している敬称を再確認
“Mx”以外で、以前から広く普及している敬称である”Mr”、”Ms”、”Miss”、”Mrs”に加えて、”No title”を再確認してみます。
Mrとは、全ての男性(未婚及び既婚)
“Mr”は、未婚及び既婚含む全ての男性が年齢に関係無く使う敬称です。
正式名称はMister、「ミスター」と発音します。
そして英国男性といえばミスタービーン。渡英する前は対して面白く感じなかったのですが、イギリスに住んでから改めてみると、結構味が伝わってきます。
Msとは、全ての女性(未婚及び既婚)
“Ms”は、未婚及び既婚含む全ての女性が使う敬称で、「ミズ」と発音します。
既婚者の場合、結婚しても自分の性を使い続ける場合、”Ms”が使われる事が多いとされています。
“Ms”は1950年代から使われ始めたと言われ、先進諸国における女性解放運動(フェミニズム)の高まりとともに、婚姻状況を敢えて明示する意味を見出せない人々等を中心に、1970年代ごろ普及しました。
Missとは、未婚の女性
“Miss”は、未婚の女性が使う敬称で、「ミス」と発音します。
未婚の女性であれば年齢は限定されないものの、一般的には若い女性に使われる為、成人した女性がいつまでも”Miss”を使っていると、やや稚拙な印象を持たれるリスクがあります。
イギリスでも人によって許容範囲がまちまち(筆者の意見ではありませんが、イギリス人の話を聞く限り三十路まで?!)だと思いますが、少なくとも社会人であれば、”Miss”の使用は避けた方が無難です。
映画ブリジット・ジョーンズの日記で、主人公は32歳未婚という設定ですが、しばしば彼女の振舞いは”Miss”を連想させるものとされています。
Mrsとは、既婚の女性
“Mrs”は、既婚の女性が使う敬称で、「ミセス」と発音します。
とりわけ結婚して配偶者の性を名乗る場合に使われる事が多い敬称です。
No titleとは、全ての人が対象
男性・女性、未婚・既婚、年齢など様々なパターンによる敬称がありますが、敢えて敬称を付けない(No title)選択をする人もいます。
イギリスでは運転免許証を、”No title”で申請したのに勝手に敬称を付けられた女性が、英国運転免許庁(DVLA)に文句を言って結構な騒ぎになっていました。
今は分かりませんが、筆者が以前イギリスに住んでいた時は男性は敬称が無く、女性のみ敬称を選択するという謎の方式でした。
運転技術の高低は、性別及び婚姻状況等と全く相関が無い筈です。
英国では、多くの敬称に関する法律が存在しない
“Mr”、”Ms”、”Miss”、”Mrs”、”No title”、”Mx”と説明しましたが、これらの敬称は英国において特に明文化された法律がある訳ではありません。
イギリスでは、簡単に誰でも改名ができますが、実はなんと敬称も同時に変更可能です。
例えば、生まれた時点の性が男性で”Mr”を使っていた人が、未婚のままでも”deed poll”を用いて、”Mrs”を名乗る事が可能です。勿論、法的にどの敬称を使おうが有効で、何ら問題ありません。
パスポートや運転免許証も、新たな名前と敬称で作れてしまいます。
“deed poll”で変える事ができるのは、名前と敬称のみです。
補足ですが、イギリスで性別を変えるには、Gender Recognition PanelよりGender Recognition Certificateを取得する必要があります。
Gender Recognition Act 2004によりGender Recognition Certificateを取得する事で、出生証明書は届出日に遡って、新たに獲得した性別が反映されます。
トランスジェンダーやトランスセクシャルの方が、法的に性別を変えるステップとして、Gender Recognition Certificateを取得する前段階で、”deed poll”が使われる事になります。
法律で使用が制限されている敬称の例
アカデミックな敬称や、爵位・称号は、それぞれ法律で使用が制限されていて、自由に使う事が出来ません。
- Dr
- Prof
- Judge
- Lord
- Sir
- MP
本記事では詳細説明を割愛しますが、ご興味ある方は、英国政府発行のパスポートに表記できる敬称リストをご覧下さい。
https://www.gov.uk/government/publications/titles-included-in-passports
アカデミックな敬称は別として、英国貴族社会が垣間見えますね。
最後に
最後にもう一度、リストを貼り付けておきます。
- Mr(全ての男性)
- Ms(全ての女性)
- Miss(未婚の女性)
- Mrs(既婚の女性)
- No title(全ての人)
- Mx(全ての人)
なおイギリス国内のニュースですが、近年は敬称を付けない場合が多い印象です。
ビジネスメールだと、世界中をみて日本人だけ文末に、わざわざ自らフルネームの前後に括弧でMr/Ms等と敬称を付けている事が散見されます。
(例)
regards,
XXX XXX (Mr)
本人からしたら、単に相手に対する親切心しか無いと思います。
また括弧を付す事で、へりくだった表現をしようとしているのが想像されますが、海外だと性別は仕事上関係無く、やや不思議と思われかねない行動に見られる事から、わたしは避けるようにしています。
時代とともに言語は発展していくものだと思いますが、英語はまだしも女性・男性・中性など性がある名詞を持つドイツ語他は、今後どうなっていくのか興味深いものです。
例えばドイツではBinnen-Iといって、ジェンダーニュートラルな名詞にする方法もありますが、そこまで普及していないように思えるのと、今後普及するのかも未知です。
※本文は以上です。
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