テクノの教会に博物館、村と言われる場所がドイツのベルリンにあります。
テクノがドイツに入ってきたのは1980年代後半と言われていますが、ベルリンの壁崩壊を経て東西ドイツ統一後、ベルリンでは発電所、地下室、格納庫、また地下鉄の駅等で若者たちによる違法なパーティが繰り広げられるようになりました。
多くの放棄された建物があり、一時的にクラブを行う場所として最適でした。
こうして東西ドイツの統一を祝う流れで、テクノは自由を謳歌する象徴として、アートやゲイ文化等とともにベルリンに根付きました。
Resident AdvisorのYouTube、”Real Scenes: Berlin”はテクノ好きでなくても、ベルリンやドイツに興味がある人は必見で、日本語字幕でも閲覧できます。
また世界最大規模のテクノをはじめとする音楽フェス、ラブパレード(Loveparade)も有名です。
本記事ではドイツ人にとって最早フォークソング的なテクノについて、ベルリンにある5つのクラブを在独者が紹介したいと思います。
Berghain(ベルクハイン)
2004年新たな場所、新たな名前でオープンしたBerghain(ベルクハイン)は、テクノの教会と言われている程です。
教会の中に入るには、ベルリンで最も恐れられているバウンサーが、首を縦にふらないといけません。ヘッド・バウンサーにたどり着く前に、早々断られる事も。
ベルクハインについては別途投稿した、以下の記事をご参照下さい。
ベルクハインは、ダークで工業的なテクノ好き向け。
Tresor(トレゾア)
Tresor(トレゾア)の前身はUfoクラブです、Dietmar Hegemann氏が現在の場所クラフトワーク(Kraftwerk Berlin)に再オープンしたのは2007年。
最寄り駅UバーンのHeinrich-Heine-Straßeから、徒歩4分程度です。
ベルクハイン同様、ベルリンの壁崩壊前にトレゾアの歴史は始まります。
Ufoクラブが1990年に閉鎖された後、旧東ドイツ側Leipziger Straßeに位置する、今は無き百貨店Werheimの地下金庫室へ移転。
この際、UfoからTresorという名になりました。
ドイツ語の”Tresor”は、「地下室」や「地下金庫室」という意味です。
しかし再開発事業で、賃貸契約の更新ができなくなり2005年に閉鎖。
現在Köpernicker Straßeに位置するクラフトワークでは、2007年にオープンしています。
クラフトワークは、元々スウェーデンの大手電力会社バッテンフォール(Vattenfall)が保有する複合発電施設であった場所ですが、2007年にクラブとして、また2010年以降はイベントや展示会場にもなっています。
“Kraftwerk”は日本語で、「発電所」という意味です。
発電所の建物は1961年、ベルリンの壁が建てられた時期と同じ頃に完成し、その後北部にできた別の発電所に交代する1997年まで、稼働していました。
トレゾアには、3つのフロアがあります。
- Tresor…メインフロア、DJとは鉄格子で仕切られています。
- Globus
- +4 BAR
旧発電所という場所柄は、ベルクハインと同じです。
バウンサーは基本的に誰でも通してくれるので、ドイツ人と一緒でない観光客でもOK。トレゾアは、よりデトロイト・テクノ好き向け。
Kater Blau(カーター・ブラウ)
Kater Blau(カーター・ブラウ)は、伝説的なBar25(2004-2010)や、Kater Holzig(2010-2013)が前身。何れもChristoph Klenzendorf氏が創設者です。
前身のKater Holzigは、それまでBar25として営業していたシュプレー(Spree)川の対岸、旧石鹸工場であった場所で2010年に営業を再開。当初から、3年の定期借地権だったようです。
その後、Kater Holzigの名前で川の反対側に戻り、クラブを続ける予定でしたが、財政難により一度閉鎖を余儀なくされました。
2014年に、ほぼBar25があった場所で、新たな名前カーター・ブラウとして再オープンを果たします。
Jannowitzbrücke駅とOstbahnhof駅の真ん中位に位置、どちらの駅からも徒歩10分弱。ネオ・ヒッピーやエコ、カルチャー、アート・ビレッジと呼ばれる、ホルツマルクト(Holzmarkt)に隣接しています。
ホルツマルクトはクラブにバー、レコーディング・スタジオ、ケーキ屋、ワインショップから、公園、オフィス・スペース、住居、保育施設まであり、まさに村と言えます。
行政主導でオフィス街として再開発される予定であったエリアは、大手不動産開発業者に売られるところでしたが、スイスのサステナブル・ファンド”Stiftung Abendrot”からの援助もあり、同ファンドがエリアの所有者となり、市民プロジェクト団体が2012年に超長期のリース契約を締結。
このホルツマルクト・プロジェクトを主導していたのが、元Bar25創始者です。都市計画のあり方として、日本含む世界の自治体から注目されていたと思います。
カーター・ブラウは、シュプレー川沿いに位置している事から、夏場の屋外エリアは格別です。”Agnes”という係留されている木製の大きなボートがあります。
ボートの上に座っている、青色の猫は有名ですね。因みに”Kater”は、日本語で「二日酔い」や「オス猫」、Blauは「青色」という意味です。
建物の中は、2つのフロアがあります。
- Heinz Hopper
- Acid Bogen
音楽やダンスに加え、ヒッピー文化、コミュニティ、サステナブル、屋外の開放的な空間等が組み入れられ、ベルクハインやトレゾアとは趣ががらりと変わります。
SaSoMoというコンセプトで有名なクラブで、ドイツ語”Samstagsonntagmontag”の略語は、日本語だと「土曜日・日曜日・月曜日」という意味です。
という事でカーター・ブラウは週末に加えて、月曜の朝まで開いています。
来るもの拒まず的な雰囲気がありそうに見えますが、カーター・ブラウのバウンサーは厳しめです。
Sisyphos(シジフォス)
Sisyphos(シジフォス)は、Julius Hausl氏とLina Thiele氏により2009年オープン。なんというかワンダーランド(不思議の国)、牧歌的な村、大人の遊園地…独特な世界観で、カーター・ブラウに近いものがあるかと思います。
トラムのGustav-Holzmann-Str駅から、徒歩1分程度です。
ベルクハインやトレゾアが工業的な旧発電所の建物を使用している一方、シジフォスは犬のビスケット工場跡地に構えています。
カーター・ブラウ同様、シジフォスは青空テクノが楽しめる屋外エリアがあり、カラフルなランプシェードが木に吊るされ、ハンモック、ソファー、キャンプ・ファイヤー、ツリー・ハウスに旗、捨てられたバン、ピザの売店、ATMまであり、来る人もヒッピーな感じの人が多いかと思います。
補足ですが、ドイツはEUでATM設置台数が1位という事のみならず、EU27か国の総ATM設置台数の約1/4弱を占めています。
屋外エリアに加えて、屋内は通常3-5つのフロアがあいています。
2014年に一度行政指導が入り閉鎖。数か月の期間を経て、営業を再開していますが、熱烈なファンにより再開を願う声がニュースに取り上げられ話題になっていました。
入り口の扉は、何とも愛くるしい鴨が出迎えているのですが、対照的にバウンサーは厳しめです。
ギリシャ神話のシジフォス(シシュフォス、シーシュポスとも)から取った名前なのでしょうか?!
写真撮影は厳禁です。あとトイレ便座の高さが無駄にあります。
Watergate(ウォーターゲート)
Watergate(ウォーターゲート)はSteffen Hack氏、Ulrich Wombacher氏、Niklas Eichstädt氏、Johannes Braun氏らにより2002年オープン。
地下鉄のSchlesisches Tor駅から、徒歩3分程度。外観は、普通の商業ビルです。
ウォーターゲートは工業的でもヒッピーさもありませんが、モダンな作りと世界的に著名なDJがまわしにくる事が売りのクラブです。
お目当てのDJや、音楽を純粋に楽しみたい人向け。
下記に貼り付けているYouTubeで確認できますが、メインフロアの天井や壁に埋め込まれている、長さ12メートルに及ぶLEDライトが有名です。
2002年オープン当初はレゲエ、ヒップホップ、テクノ等様々な種類の音楽を扱っていましたが、すぐにテクノやハウスにフォーカス。
2つのフロアがあります。
- メインフロア
- ウォーターフロア
Pan-Pot、Anja Schneider、Sven Väth、Paul Kalkbrenner、Oliver Koletzki等のDJがウォーターゲートにプレイしに来ます。
コロナ禍で営業禁止を余儀なくされたクラブですが、ドイツではライブストリーミングを配信しクラブ自体や(テクノ)文化を守ろうとする、”United We Stream”運動があります。
この第1回目のストリーミングは、Watergateからでした。
シュプレー川沿いにある訳ですが、フロアから見上げるベルリン観光名所の1つ、オーバーバウム橋(Oberbaumbrücke)やシュプレー川のパノラマビューは一段と素晴らしいです。
発電所や工場の跡地でもなく、ヒッピーさもウォーターゲートにありませんが、オーバーバウム橋は1961年から1989年まで、分断された東西ベルリンをつなぐ歴史的な橋で国境検問所がありました。
冒頭で触れた通り、東西統一後にテクノがベルリンに果たした役割は非常に大きく、ドイツ人でなくともウォーターゲートに来たら、何かしら感じるものがあるのではないでしょうか。
出島のように、シュプレー川の上に設置されたバルコニーがあるので、明け方に日の出を見るのもおすすめです。ウォーターフロアから、バルコニーにアクセスできます。
以下のYouTubeは”United We Stream”ではなく、Watergate自身のチャンネルです。
バウンサーは、カーター・ブラウよりは厳しくないかと思います。
最後に
ドイツのテクノ音楽都市ベルリンにあるクラブ5選でした。
1980年代後半、当時は廃墟等で違法に行われていたパーティが時代とともに主催者は法人化、合法的に運営されるようになり、1つの確立された文化としてテクノやクラブが、国や社会に認知(「テクノは音楽」、Berghainにドイツ連邦最高裁が判決を下す。)されていく様は、この時代を生きたドイツ人にとっては特別なものかと思います。
ベルリンにあるクラブのドアポリシーは時に残酷で、海外から来る観光客や、ドイツ人でさえ苦言していたりします。
冒頭に貼り付けたResident AdvisorのYouTubeで、トレゾアのDietmar Hegemann氏が「クラブで楽しめないであろう人、雰囲気が相容れない人、単に酔っ払いに来ている人等は、クラブに来ている人やクラブ文化を守るために、バウンサーが選別している」と語っています。
本来、地元民が楽しむクラブに観光客が押し寄せる姿は、商業化されていく文化の難しい側面でもありますが、バウンサーという番人の匙加減で、規模が大きくなった今でも、アイデンティティや独特の世界観を維持しているのが面白くもあります。
※本文は以上です。
もし記事を気に入っていただけたら、是非、SNS等でシェアいただけたらと思います!
記事一覧は、サイトマップから確認できます。