ドイツの社会実験に応募、無条件ベーシックインカム(UBI)とは

ドイツ至上初の取組み、無条件ベーシックインカム(Unconditional Basic Income = UBI)の社会実験を実施する旨、2020年8月Pilotprojekt Grundeinkommenよりアナウンスがありました。

公式YouTubeで、1つだけあった英語バージョンを貼り付けておきます。

この社会実験の応募条件(応募時にドイツが主たる居住国で、18歳以上の人)を満たしていたので、タイトル通り応募してみました!


本記事では、無条件ベーシックインカム(UBI)の社会実験について、ドイツ在住の筆者が説明したいと思います。

特段明記が無い限り、各種ソース元はDIW BerlinとMein Grundeinkommenの各サイトです。

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無条件ベーシックインカム(UBI)とは

無条件ベーシックインカム(UBI)とは、政府による最低限所得保障の一種で、所得水準に関わらず全ての国民に、最低限の生活を送るのに必要とされている一定の現金を、無条件で定期的に支給するものです。

所得水準で制限を設ける場合、単にベーシックインカム(BI)と呼ばれる事があります。

また支給単位は世帯では無く、一個人です。その為かUBIの”U”は、”Unconditional”に加え、”Universal”を使う場合も散見されます。

今回ドイツでのUBI社会実験では、120人3年間月額1,200ユーロを支給します。



本件は、1925年設立のDIW Berlin(German Institute for Economic Research = ドイツ経済調査研究所)と2014年設立のUBI支援団体Mein Grundeinkommenとの合同調査プロジェクトで、1911年設立の調査機関Max Planck Institutケルン大学も協力しています。




ドイツをはじめ、ユーロ圏で今後、数十年単位で議論されていくであろうUBIですが、壮大で大変複雑なテーマです。

社会実験の目的はシンプルに、「ベーシックインカムが、どのように人々や社会に影響を及ぼすか」知るためです。


もし月額1,200ユーロ(当初記事投稿日時点だと、15万円相当)が支給されたら、あなたの労働意欲・社会生活・消費行動等はどうなりますか?


UBIは以下3つの条件が揃う事で機能するとされており、社会実験では各項目を検証する為、3つのステップが設けられています。

  • 個人及び集団的に、肯定的な効果を生み出すか
  • 財源の問題、経済的に実行可能か
  • 有給雇用へのインセンティブを、過度に減らさないか


ステップ1(2021-2024年予定)
1,500人の参加者の内、120人に3年間、毎月1,200ユーロを支給

ステップ2(2022年開始予定)
毎月1,200ユーロに満たない金額を得ている参加者に、1,200ユーロとの差額を支給

ステップ3(2023年開始予定)
全ての参加者に、毎月1,200ユーロを支給。その他全ての所得に対し、50%にシミュレートされた税に対して1,200ユーロが相殺、差額が支払われます。

応募者が殺到

当初、3か月間で1,000,000人の応募者を目的としていましたが、社会実験への応募開始から僅か3日間で達成してしまいました。


当初は、応募者が1,000,000人に達した時点か、2020年11月10日の早い方を受付期限としていましたが、より多くの応募者がいた方が質の高い調査になり得る、という事で2020年11月10日まで引続きオープンになっています。

社会実験への応募条件(応募時にドイツが主たる居住国で、18歳以上の人)を確認する限り、国籍は問われないので、日本人でも応募自体は以下の公式サイトから可能です。
https://www.pilotprojekt-grundeinkommen.de/teilnahme-bewerbung

今後の流れ、選ばれた120人には2021年春から現金支給

社会実験は上記の通りステップ1-3から構成されており、次のステップに進むには、その前のステップを検証した結果、肯定的な効果が見られなければなりません。

繰り返しですがステップ1では、120人3年間月額1,200ユーロを支給します。


応募締切日である2020年11月10日後の流れですが、まずは応募者から、20,000人が選ばれ質問事項(basic survey)に回答します。ここまでで2か月間を想定しています。


その後、ランダムに実験対象の母数となる1,500人を選びます
1,500人の内、ベーシックインカムが支給されるのは120人で、basic income groupと呼ばれます。

残りの1,380人はcomparison groupと呼ばれ、ベーシックインカムは支給されませんが、basic income group入りできる可能性があります。




comparison groupは、basic income groupに選ばれた1人に対し、ほぼ同じ属性を持つ“statistical twins”と呼ばれる複数人により構成されます。


つまり、社会実験でbasic income groupに観察された変化が、実際にベーシックインカムによるものであるかを、comparison groupと比較検証されます。


ベーシックインカムの支給開始は、2021年春を予定しているようです。

社会実験の参加者になると

社会実験の参加者(basic income group)になると、半年ごとに、オンラインで質問事項に回答する必要があります。

1回の調査で、約25分程度時間がかかるようですが、継続してbasic income groupに留まる唯一の条件が、オンラインでの回答です。

主な質問事項:

雇用
時間の使用
消費行動
価値観
健康



その他インタビューを受けたり、ストレスレベルを調査する目的で髪の毛を提出したりする必要もあるようです。

後述しますが、ベーシックインカムの支払いは、(労働やサービスの提供等)何かしらの対価ではなく、寄付に過ぎないのでbasic income groupに選ばれて、仮に月額1,200ユーロが支払われなくても、法的に訴える権利は実験の参加者にありません。

ただし社会実験の目的を鑑みると、滞りなくベーシックインカムの支払いするインセンティブが運営側にはある筈です。

ベーシックインカムは非課税も、他の社会給付金が減額されるリスク

本社会実験の財源は、「ベーシックインカムが、どのように人々や社会に影響を及ぼすか」知るために、140,000人程度の個人が寄付をしたお金です。

月額1,200ユーロは、ドイツにおける贈与税がかからない金額に設定されているのと、何かしらの対価としてベーシックインカムが支給される訳では無いので所得税もかかりません。


多くの場合、以下にリストアップした社会給付金より、ベーシックインカムの方が高い事が想定されますが、ベーシックインカムを受取る事で、既存の社会給付金が(もしあれば)減額或いはゼロになるリスクがあります。

  • Arbeitslosengeld 1 (ALG I)
  • Arbeitslosengeld 2 (ALG II, umgangssprachlich Hartz IV)
  • BAfög
  • Wohngeld
  • Kinderzuschlag
  • Elterngeld
  • Unterhaltsvorschuss
  • Leistungen gemäß des Asylbewerberleistungsgesetzes

もし応募する場合は、個別に影響具合をご確認下さい。

他国のベーシックインカム(BI)社会実験との違い

ベーシックインカム(BI)の議論自体は以前から行われていて、特段目新しさはありません。

実際に他国では、過去にBI社会実験が行われたりしていますが、何故今回ドイツで行われる無条件ベーシックインカム(UBI)社会実験が、EUをはじめ海外各国で注目されているのでしょうか。

項目1974-1979
カナダ
1982
アラスカ
2008-2009
ナミビア
2011-2012
インド
2016-2028
ケニア
2017
オランダ
2017-2018
フィンランド
2021-2024
ドイツ
全ての人が対象
無条件で支給
最低限の生活を現実的に送れる金額
政治色が無く独立性がある
財源を考慮している

表は主なBI社会実験をまとめたものですが、ドイツの場合全ての項目が網羅されている事が分かります。

またステップ1-3を通して、BIがもたらす社会変化を観察、財源をどうするか、どのパイロットプロジェクトがドイツで機能するか検証可能です。

最後に

以上、ドイツにおける無条件ベーシックインカム(UBI)の社会実験についてでした。


素朴な疑問で、ドイツと言えば移民問題が挙げられますが、自国民とその他を全く区別せずに、主たる居住地と年齢だけでUBIの支給対象を判断するとなると、もしEU内でUBIに関して平仄が取れてないと、短絡的な思考かもしれませんが、UBI目的の移民が更に増えそうに思えます。



今回の社会実験では、移民かどうか区別せず、日本人のようにわたしでも応募自体はできてしまったので、この点は今後発表されるであろう調査結果レポートを追う事としたいと思います。


応募結果は、遅くても2020年11月17日までにEメールで回答がくるとの事なので、ブログかツイッターで報告予定です。



※本文は以上です。
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