オスのひよこ粉砕殺処分に終止符、動物福祉先進国ドイツで2022年から

生まれたばかりのニワトリのヒナ(ひよこ)が、メスかオスか選別(鑑別)されているのを、あなたはご存じでしょうか。

オスのひよこは、二酸化炭素ガス・粉砕・放置などにより殺処分されます

ドイツ連邦食糧・農業省(Bundesministerium für Ernährung und Landwirtschaft = BMEL)によると、ドイツ国内だけで年間45百万羽ほど…卵や鶏肉を食している背景には、残酷な事実があります。

動物福祉先進国と呼ばれているドイツでは、世界に先駆けて2022年からオスのひよこ殺処分を禁止する法案が、2021年1月20日に通った事で生産者は対応を迫られる事になります。

ドイツ在住である筆者が、どのような法案なのか説明したいと思います。

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オスのひよこ殺処分を禁止する法案

ドイツ連邦食糧・農業省(BMEL)のJulia Klöckner (ユリア・クレックナー)氏が、ドラフトした法案です。

独立したものでは無くて、既存のドイツにおける動物保護法(Tierschutzgesetz)に、オスのひよこ殺処分の禁止を盛り込んだ修正案(Entwurf eines Gesetzes zur Änderung des Tierschutzgesetzes – Verbot des Kükentötens)です。


詳しくは、上記の別途投稿記事で取り上げていますが、動物保護法(1972年~)以外にも様々な法律があり、2002年には憲法に相当するドイツ連邦共和国基本法(Grundgesetz für die Bundesrepublik Deutschland)に「動物保護」に関する条項(第20条a)が追加されています。




ドイツ連邦食糧・農業省の公式リリース記事によると、法律でオスのひよこ殺処分を禁止した国は、世界でドイツが初とクレックナー氏がコメントしています。

20. Jan 2021 Pressemitteilung Nr. 7/2021

Verbot des Kükentötens kommt

Bundeskabinett beschließt Gesetzentwurf von Bundesministerin Klöckner – Deutschland ist weltweit Taktgeber, erstes Land, das gesetzlich aussteigt

Julia KlöcknerMit meinem Gesetz sorge ich dafür, dass in Deutschland nur noch Eier ohne Kükentöten produziert werden. Diese unethische Praxis gehört dann der Vergangenheit an. Das ist ein bedeutender Fortschritt für den Tierschutz: Weltweit sind wir die ersten, die so klar vorgehen.”

引用元リンク:https://www.bmel.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2021/07-kuekentoeten.html


また次のステップとして、2024年から6日間経過した胚を殺処分する事が禁止されます。

ニワトリのヒナの雌雄鑑別とは

ドイツ連邦食糧・農業省は、ひよこが孵化する前に性別を確認(”in ovo sex determination”)し、オスのひよこが孵化しないようにする技術に約6.5百万ユーロを費やしています。

“endokrinologische Verfahren”と呼ばれる技術で、9日間程度経過した卵から胚に触れずに液体成分を抽出し、機器によりオスかメスか鑑別します。

技術の進歩により、9日間から更に短縮される事が見込まれています。

この技術を生産者が導入する事で、2022年から年間で45百万羽ほどのひよこのオスが、孵化した後に殺処分されないようになります。



単語”ovo”ですが、「卵」を意味します。ラテン語ōvumが語源です。


話が逸れますが、ベジタリアン(菜食主義者)を大きく3つに分類する際に使われる”ovo”と同じです(Lacto-ovo、Lacto、Ovo)。

なぜオスのひよこだけ殺処分されるのか

そもそも、なぜオスのひよこだけ殺処分されるかですが、2つ理由があります。

  • 卵を産まない
  • 食肉に適さない

以上より、オスのひよこを育てるメリットが経済的に無い為、ドイツだけでなく世界中で、オスのひよこは孵化後に殺処分されている現実があります。



雌雄鑑別により、オスのひよこを孵化させないようにする技術に加えて、”Zweinutzungshühner”アプローチという手法も研究されています。

“Zweinutzungshühner”は英訳すると”dual purpose chickens”、ドイツだけで研究されている訳ではありませんが、メスは卵を産み、オスは食肉用に育てる品種(つまり、孵化後にオスを殺処分しない)を指します。

しかし現在主流となっている品種より、メスは少ない・小さい卵を産む、オスは成長スピードが遅く胸肉が小さい傾向があり、まだ発展途上です。

2013年NRW州独自に、オスのひよこ殺処分禁止令

2013年ノルトライン=ヴェストファーレン州(Nordrhein-Westfalen)で、オスのひよこ殺処分禁止令が出され、同州内では2015年以降、殺処分が違法となりました。

生産者側は、異議を唱えミンデン(Minden)の行政裁判所(Verwaltungsgericht = VG)、ミュンスター(Münster)の高等行政裁判所(Oberverwaltungsgericht = OVG)で争います。

2019年6月には、ライプツィヒの連邦行政裁判所(Bundesverwaltungsgericht = BVerwG)が「オスのひよこ大量殺処分は合法」という判決を下した事で、世界各国で否定的なタイトル記事で報道されていましたが、「殺処分は、雌雄鑑別技術が確立されるまでの間」という条件付きでした。

Nr. 47/2019 vom 13.06.2019

Töten männlicher Küken tierschutzrechtlich nur noch übergangsweise zulässig

Das wirtschaftliche Interesse an speziell auf eine hohe Legeleistung gezüchteten Hennen ist für sich genommen kein vernünftiger Grund i.S.v. § 1 Satz 2 des Tierschutzgesetzes (TierschG) für das Töten der männlichen Küken aus diesen Zuchtlinien. Da voraussichtlich in Kürze Verfahren zur Geschlechtsbestimmung im Ei zur Verfügung stehen werden, beruht eine Fortsetzung der bisherigen Praxis bis dahin aber noch auf einem vernünftigen Grund. Das hat das Bundesverwaltungsgericht in Leipzig heute entschieden.

引用元リンク:https://www.bverwg.de/pm/2019/47


2019年6月13日ライプツィヒBVerwG:BVerwG 3 C 28.16 / BVerwG 3 C 29.16
2016年5月20日ミュンスターOVG:20 A 530/15 / 20 A 488/15
2015年1月30日ミンデンOV:2 K 80/14 / 2 K 83/14

最後に

オスのひよこ殺処分禁止は大きな一歩に間違いありませんが、品種改良含めまだ課題が色々と残された形になっています。

今回の動物保護法修正案は、生産者にとってはコスト増で、最終消費者に転嫁され今後ドイツでは卵や鶏肉など値上がりするのでしょうか。

ドイツ国内では既に、オスのひよこ殺処分をしない生産方法(Seleggt)が採用された卵が“Respeggt”というラベル(名前)で、REWEやPENNY等のスーパーで販売されています。

あまりに地味すぎるので、普通に生活していたら気付かないと思います。



地域にもよると思いますが例えばREWEの場合、現時点では“Respeggt”と通常の卵1個あたりだと、数セント位の違いしかありません。


動物保護法修正案が2022年から施行される事で、今後どのような影響が出てくるかは未知ですが、消費者目線で何か気付いた事があれば、適宜報告したいと思います。




※本文は以上です。
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