ドイツのベルリンにて2013年創業、店舗を持たないデジタル銀行N26は、瞬く間に成長し現在ユーロ圏、スイス、米国など25か国で、実に5百万人ものユーザーに、サービスを提供しています。
わたしは実際にドイツでN26を使っていますが、ドイツ国内で同じ土俵に立てる銀行はいないと断言できます。
N26は、フィンテック(Financial Technologies)、ユニコーン企業( 一般的に、「創業10年以内」「評価額10億ドル以上」「未上場」「テクノロジー企業」といった4つの条件を兼ね備えた企業を指す) 、チャレンジャーバンク、ネオバンク、デジタルバンク(店舗を持たず、Appなどで全て完結)などと呼ばれ、何となくテクノロジーを活用した斬新な銀行というイメージが先行していまいますが、どういったところが、伝統的な銀行と違うのでしょうか。
在欧歴5年超でN26をはじめ、Monzo(モンゾー)、Revolut(レボリュート)、TransferWise(トランスファーワイズ)などを自分で使ってきた経験と合わせて、まとめてみたいと思います。
まとめ
結論を言うと、N26はプラットフォーム(場や箱)を提供しています。商品や情報は全て自前で準備するのではなく、適宜パートナーと提携して、N26ユーザーに提供しています。
以下、N26がAppを通して提供している商品です。
提携商品 | パートナー先 |
---|---|
国際送金 | TransferWise(トランスファーワイズ) |
預金 | Raisin(ライジン) |
保険 | Clark(クラーク)、Allianz(アリアンツ) |
P2Pレンディング、クラウドファンディング | Auxmoney(アオクスマネー) |
デビットカード、コンタクトレス決済 | Master Card(マスターカード) |
N26のユーザー向けに、取扱う商品はアウトソースしているので、いわばN26がプラットフォーマーとして、ユーザーを極大化する事が最重要課題になります。
なぜユーザー数を増やす事が至上命題かは、順を追って説明したいと思います。
伝統的な銀行の機能
ここで一旦、伝統的な銀行の機能を説明しておきたいと思います。
大きく分けて、3つの機能があります。
金融仲介機能
借り手と貸し手の仲介をおこなうものです。日常生活に近い言葉で表現すると、預金と貸付です。
- 預金により、銀行は資金を調達
- 調達した資金を、法個人に貸付
調達と貸付の利鞘で、銀行が儲ける仕組みです。
何か物を安く買って高く売るのと同じで、低い利率で資金を調達して、それより高い利率で資金を貸し出せば、差額が儲けになります。
フィー(手数料)に対して、ストックのビジネスとも言われています。
信用創造機能
銀行が貸付によって、預金通貨を創造できる仕組みです。
例えばAさんが銀行に100万円を預金して、銀行が90万円をBさんに貸付たとします。
90万円を銀行から借りたBさんは、銀行口座に資金が振り込まれます。銀行の見かけ上の総額は100+90=190万円になります。
そしてBさんの銀行口座に入れた90万円のうち、銀行が81万円をCさんに貸付たとします。
81万円を銀行から借りたCさんは、銀行口座に資金が振り込まれます。銀行の見かけ以上の総額は100+90+81=271万円になります。
預金 | 貸付 | 相手方 |
---|---|---|
100万円 | – | Aさん |
– | 90万円 | Bさん |
– | 81万円 | Cさん |
預金100万円に対して、171万円の貸付をしています。
銀行が手元に残す金額は、日本の場合準備預金として日本銀行によって定められていますが、銀行の信用をもとに借入(預金)と貸付を繰り返す事で、手元預金額の何倍もの貸付が行われます。
決済機能
振込、振替、クレジットカードの引落しなどイメージが付きやすいのでは無いかと思います。
プラットフォーム戦略とは
商品やサービス、情報を集めたプラットフォーム(箱)を提供し、ユーザーを増やす事で、市場優位性を確立するビジネスモデルです。
アマゾンとか楽天も、プラットフォームを提供して、様々な企業が商品を出品していますよね。Facebookも同じことが言えるし、物理的な意味で花・魚市場なんかも昔からあるプラットフォームのひとつの形態と言えます。
EU圏の銀行に関して言うと、PSD2 (Revised Payment Services Directive)という欧州決済サービス指令が2018年施行され、一部を抜粋すると、ユーザー情報を保護しつつ、取引のセキュリティ向上に加え、革新や競争を促す仕組みになっています。
というのもPSD2によって、銀行はAPI (Application Programming Interface)というものを構築しなくてはならず、このAPIを用いる事で、第三者デベロッパーが、安全に銀行口座情報にアクセスして、付随するサービスを提供できるからです。
閉ざされた銀行システムから、相互利用できるユニバーサルなシステムというのがポイントです。
オープンAPIとか、オープンバンキングと呼ばれる事が多いかと思いますが、PSD2はFintechとの相性が抜群で、もうお分かりのように、プラットフォーム戦略が活きてくる訳です。
プラットフォーム戦略のメリット
何よりも一つのプラットフォームで様々な商品にアクセス可能
プラットフォームを使う消費者として、シームレスに商品にアクセスできるメリットがある一方、プラットフォームに参加する企業側の視点としては、一社では実現できない事が、複数企業で協働して実現可能になるかと思います。
また提供する商品や情報は、フレキシブルに更新できるのも、オンライン上でビジネスを行うメリットと言えます。
上記まとめの通り、N26に関して言うと国際送金はTransferWise(トランスファーワイズ)、預金はRaisin(ライジン)、保険はClark(クラーク)とAllianz(アリアンツ)、 P2Pレンディング/クラウドファンディングは Auxmoney(アオクスマネー)、 デビットカード/コンタクトレス決済はMaster Card(マスターカード)等とパートナーを組んでいます。
銀行口座と、各種サービスが直結しているのは、ユーザーとして大変便利ですよね。
既存インフラを活用
ゼロから自前で作るのでなく、既にあるインフラ(プラットフォーム)を使った方が、コストや手間がかからないです。
知名度が既にあり、単独で集客が成功している企業であれば別ですが、APIを用いる事でプラットフォームに参加する企業にとっては、大いにメリットがあります。
信頼やブランド力
プラットフォームを提供する側(ベンダー)の経営リスクや、セキュリティリスクがありますが、銀行となれば免許を取得するのに、当局のお墨付きを得たという意味で、プラットフォームに参加する企業や、ユーザーは安心感を得るものと思われます。
ネットワーク効果
Facebookや、LINEなどSNSユーザー同士を結び付けるもので、N26同士ではMoneyBeamと言って簡単にお金の授受ができてしまいます。
Monzo(モンゾー)やRevolut(レボリュート)も同様な仕組みがありますね。
またN26ではAuxmoney(アオクスマネー)とパートナーを組んでおり、 P2Pレンディング、クラウドファンディングが可能です。
共通しているのは、ユーザー数が増えれば増える程、満足度が高くなる傾向があるという点です。
膨大な顧客情報
複数の商品にアクセスでき、かつ一元的に情報が集約できるので、膨大な顧客情報の取得が可能です。
ビッグデータとかディープラーニングとか言われているあれです。
プラットフォーム戦略のデメリット
どちらかというと、ユーザーというよりもプラットフォームを使う(参加する)企業側が、デメリットを感じやすいと思います。
プラットフォーム参加企業に、必ずしも銀行と同等の信用がある訳ではない
N26に関して言うと、銀行だから提携している商品全てが規制された業務で、ユーザーが守られているかというと、そういう訳ではありません。
P2Pレンディングやクラウドファンディングは、預金と比べると一種の投資行為と言え、一般的にリスクが高いと言えます。
Revolut(レボリュート)のケースで言えば、そもそも銀行ではありませんが、App上で簡単にビットコインなど暗号通貨が売買できてしまいます。
ビットコインの安全性についての議論は、ここでは控えますが、要はプラットフォーム上で、どのような取引をするかのリスク判断は、ユーザーであるあなた自身でする必要があります。
ある程度ユーザー数が伸びないと、プラットフォームの良さが生まれない
立ち上げ初期や、過疎化などユーザー数が少ないと、プラットフォームの良さを体感できません。
N26がブレグジットを理由に、イギリス市場から撤退するアナウンスがありましたが、本当の理由としては、イギリス国内においてのユーザー数が伸び悩んでいたのではないかと思われます。
インフラが落ちたら死活問題
プラットフォームに参加している企業にとって、インフラが何らかの理由で落ちた場合、死活問題です。
特に、一つのプラットフォームしか参加していない、自前でサービスを提供できるプラットフォームを持っていない場合は大問題ですし、ただでさえユーザー満足度が悲惨な事になるかと思います。
ユーザーと企業を繋ぐ架け橋を、他社が提供するプラットフォームに依存するのは、ビジネス上のリスクと言えます。
突然ルールが変わるリスクがある
プラットフォームに参加する企業視点ですが、出店ルールや、手数料体系など、突然変わるリスクがあります。
参加企業はコントロール不可なので、新しいルールに従うか、撤退するしかありません。
複数のプラットフォームに同じ企業が参加する
プラットフォームを提供する側のデメリットですが、異なるプラットフォームに同じ企業が参加すると、差別化が難しくなります。
実際、TransferWise(トランスファーワイズ)はN26やMonzo(モンゾー)などとパートナーシップを締結しているので、実はN26・Monzo(モンゾー)どちらのAppを使っても、海外送金のコストは変わりません。
またTransferWise(トランスファーワイズ)自身も、自社サイトで商品を扱っているので、ユーザーは直接TransferWise(トランスファーワイズ)で取引ができてしまいます。
最後に
プラットフォーム戦略では、とにかく規模が大事という点が理解できたかと思います。ある程度ユーザー数が伸びないと、プラットフォームの良さが生まれない。そして、過疎化しない仕組み作りも重要と言えます。
伝統的な銀行(金融仲介機能、信用創造機能、決済機能)と比べると、N26は重複している部分もあり、またテクノロジーの力を大いに活用している事は間違いありませんが、プラットフォーム提供に割り切っているN26は、根本的に銀行としての思想が違うのではないかと言えます。
それが消費者や社会にとって良いのかですが、少なくともわたしはN26の便利さを実感しているので、ありだと思います。まさに競争から、協創という訳です。
EU圏では欧州決済サービス指令(PSD2)で分かるように、金融業に革新や競争を促すよう政府主導で取り組んでいます。今のところ、その思惑は成功し、伝統的な銀行に対し、チャレンジャーバンク、ネオバンク、デジタルバンク(店舗を持たず、Appなどで全て完結)などと呼ばれる銀行が、台頭し始めています。
一つ気になる点を挙げるとすれば、N26のイギリス撤退です。別途、投稿した記事で説明していますが、プラットフォーム戦略で差別化できないとなると、結局のところ、伝統的な銀行が本気を出した場合、N26など新参者の存在意義が問われてくるからです。
イギリスにおいては、単にMonzo(モンゾー)など他の競合先に、N26が食い入る余地が無かっただけだと思われます。
でも伝統的な銀行が、N26と同じApp機能を実装するには、相当な時間がかかりそうですが。もうプッシュ通知で、取引がリアルタイムで確認できない生活には戻れません。
PSD2は金融業に革新や競争を促しても、決して新鋭の銀行を守るものでは無いですからね。
海外は、ルールというか、こういう仕組み作りが非常に上手いですよね。金融業に限らずプラットフォームを使う側でなく、提供する側というのは、非常に強くて優位なポジションだと思います。
※本文は以上です。
もし記事を気に入っていただけたら、是非、SNS等でシェアいただけたらと思います!