イギリス企業の商号には、一定の規則に基づいて略称が末尾にあります。
略称の中でも、特に見かける事が多い「LTD」と「PLC」について簡単に説明したいと思います。
特にイギリス企業の9割程度が「LTD」の形態をとっており、一度目にしたことがある人も多いかと存じます。
欧州会社規則や、ドイツ・フランス・スペイン・オランダ等の場合についても多少触れています。
「LTD」とは、非公開有限責任会社
イギリスにおける「LTD」とは、日本の「旧有限会社」に相当する企業形態です。
「LTD」の正式名称は、A Private Limited Company
日本語にすると、非公開有限責任会社です。
ドイツでは「GmbH」が、フランスではSociété à responsabilité limitée = 「SARL」が、イギリス「LTD」の類似企業形態として挙げられるかと思います。
「PLC」とは、公開有限責任会社
イギリスにおける「PLC」とは、日本の「株式会社」に相当する企業形態です。
「PLC」の正式名称は、A Public Limited Company
日本語にすると、公開有限責任会社です。
ドイツでは「AG」が、フランスではSociété Anonyme = 「SA」が、イギリス「PLC」の類似企業形態として挙げられるかと思います。
加えてEUにおいては、2004年10月8日施行の欧州会社規則(EU Directive)に基づき設立される欧州会社(European Company) = 「SE」(ラテン語でSocietas Europea)も、イギリス「PLC」の類似企業形態と言えます。
ドイツやフランス、オーストリアなどEUメンバー国それぞれ会社法がありますが、欧州会社 = 「SE」として一度登記すれば、EU全域で欧州会社規則に準じた会社運営が可能です。
「LTD」と「PLC」を比較
イギリスにおける「LTD」と「PLC」を比較します、主なポイントです。
LTD | PLC | |
---|---|---|
日本語訳 | 非公開有限責任会社 | 公開有限責任会社 |
最低資本金 | 0ポンド超 | 12,500ポンド (額面50,000ポンドの1/4以上) |
会社法 | Companies Act 2006 | Companies Act 2006 Takecover Code |
機関 | 取締役 | 取締役会 会社秘書役 株主総会 |
株式譲渡 | 制限あり (要承認) | 自由 |
出資者の責任 | メンバーは出資額に限定 (有限責任) | 株主は出資額に限定 (有限責任) |
株式 | 非公開 (上場不可) | 公開 (上場・非上場何れも可) |
イギリスの株価指数FTSE100の構成銘柄など上場企業は、当然ですが全てPLCか、PLCに類似する企業形態です。
以下の投稿記事に、FTSE100銘柄全ての企業名があるので、末尾の略称に注意してご覧下さい。
企業名の末尾を確認すると株式会社を意味する「PLC」、「AG」がありましたね。
加えて「SA」、「NV」という略称も新たに出てきました。何れも株式会社を意味します。それぞれ国を括弧内に記載します。
- Coca-cola HBC AG(スイス)
- International Consolidated Airlines Group SA(スペイン)
- Just Eat Takeaway NV(オランダ)
コカ・コーラHBCは、スイスを拠点に欧州地域を統括。
International Consolidated Airlines Group(IAG)は、イギリスのブリティッシュ・エアウェイズとスペインのイベリア航空が合併してできたホールディングス会社です。
最後のJust Eat Takeawayは、オランダ発のオンライン・フード・デリバリー。イギリスJust Eatを買収した事で2020年2月に、FTSE100銘柄入り。
企業形態の約93%が「LTD」
英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省(Department for Business, Energy and Industrial Strategy = BEIS)によると、プライベートセクターの事業形態は個人事業(sole proprietorships)、パートナーシップ(ordinary partnerships)、企業(companies)の3つに分類され、以下の通り予想値ですが発表されています。
個人事業 | 企業 | パートナーシップ | |
---|---|---|---|
事業形態数 | 3.5百万 | 2百万 | 0.4百万 |
内オーナーのみ (従業員ゼロ) | 3.3百万人 | 0.9百万 | 0.3百万 |
個人事業は企業の1.5倍という結果です。
企業(companies)は、「LTD」、「PLC」や「LLP」等を指します。
パートナーシップは弁護士、会計士、医師などが設定する場合が多いので、流石に絶対数としては少ないです。
「LLP」やパートナーシップについては後述しています。
本記事で取り上げている「LTD」、「PLC」を含む企業形態に話を戻して、2018年から2019年にかけて登録された数を確認してみます。
ソース元は、英国企業登記局(Companies House)です。
イギリスの企業形態 | 数 | パーセント |
---|---|---|
Private Limited(LTD) | 4,040,779 | 92.8 |
Private Limited by Guarantee /No Share Capital | 108,483 | 2.5 |
Limited Liability Partnership(LLP) | 52,429 | 1.2 |
Limited Partnership(LP) | 51,761 | 1.2 |
Private Limited by Guarantee /No Share Capital /(Use of Limited Exemption) | 41,923 | 1.0 |
Charitable Incorporated Organisation(CIO) | 20,863 | 0.5 |
Overseas Company(OC) | 12,236 | 0.3 |
Industrial and Provident Society(IPS) | 9,543 | 0.2 |
Public Limited Company(PLC) | 6,529 | 0.1 |
Other corporate body types | 9,028 | 0.2 |
合計 | 4,353,574 | 100.0 |
「PLC」は僅か0.1%なので、いかに92.8%の「LTD」が多いか確認できます。
「LTD」の次に多い「LLP」ですが、Limited Liability Partnerships Act 2000により加えられたパートナーシップ形態の一つです。
「LLP」は「LTD」と「Partnership」のハイブリッドで、一見すると「LTD」と共通点が多い一方、運営主体、秘匿性、公開情報、設立要件やコスト、税制面など違いがあります。
まとめ
最後に改めて以下の通り、まとめておきたいと思います。
イギリス | LTD | PLC |
日本 | 有限会社 | 株式会社 |
ドイツ オーストリア スイス | GmbH | AG |
フランス | SARL | SA |
スペイン | SL | SA |
オランダ | BV | NV |
欧州会社 | – | SE |
合併していたり多国籍企業だと、複雑な場合もありますが、企業の末尾にある商号を確認すると、欧州会社の「SE」を除き、ある程度どの国の企業なのか想像がつきます。
「LTD」に関しては、英国企業登記局(Companies House)のサイトで簡単にオンライン申請が可能で、なんと24時間で設立手続きが完了します。コストは12ポンドです。
電子政府・電子国家といったらエストニアが有名ですが、流石にフィンテック大国イギリスです。
※本文は以上です。
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