日本と同様に、高齢化と労働力人口の減少に直面しているドイツでは、移民政策を実施し2019年において全人口81.8百万人の、約26%が移民の背景(Migrationshintergrund)を有します。
そして国営金融機関のドイツ復興金融公庫(KfW)が2020年11月に発表したレポートによると、2019年ドイツにおけるスタートアップの約25%が、移民の背景を持つ創業者により起業されました。
ヨーロッパではイギリスに次いでユニコーン大国であるドイツですが、例えばフィンテックのN26、2020年日本へ進出したデリバリーヒーロー(Delivery Hero SE)、また新型コロナウイルスワクチンの開発で世界的な注目を集めたビオンテック(BioNTech)等の創業者は、何れも移民の背景を有します。
本記事では、移民の背景の定義、またドイツのスタートアップはなぜ移民の背景を持つ創業者が多いのか触れたいと思います。
移民の背景(Migrationshintergrund)の定義
島国である日本では、あまり馴染みが無いかもしれない言葉、移民の背景(Migrationshintergrund)の定義を先に確認します。
ドイツ連邦統計局(Das Statistische Bundesamt)によると、「両親或いは何れかの親が、出生時にドイツ国籍を保有していない場合」、移民の背景を有すると定義しています。
Im Jahr 2019 hatten 21,2 Millionen Menschen und somit 26,0 % der Bevölkerung in Deutschland einen Migrationshintergrund.
Eine Person hat nach der hier verwendeten Definition einen Migrationshintergrund, wenn sie selbst oder mindestens ein Elternteil nicht mit deutscher Staatsangehörigkeit geboren wurde.
引用元リンク:https://www.destatis.de/DE/Presse/Pressemitteilungen/2020/07/PD20_279_12511.html
移民の背景を持つ21.2百万人の内、国籍を見るとドイツ国籍(11.1百万人)と外国籍(10.1百万人)で大体半分づずです。
なお21.2百万人の内、64.9%がヨーロッパ域内から、次いで21.7%がアジアからの移民です。
欧州連合(EU)諸国の国籍保有者であり、EU域内であれば居住・労働の場所を選ぶ自由があるので、ヨーロッパ域内からの移民が多いのは納得です。
またドイツに限った話ではありませんが、ヨーロッパでは国際結婚の夫婦は頻繁に見かけます。
移民大国ドイツ、日本は世界4位
経済協力開発機構(OECD)のInternational Migration Databaseによれば、移民受け入れ先としてドイツは世界1位で、2018年には138万人程度の移民を受け入れています。
以下の表は、2018年の移民受け入れ大国トップ5です。
順位 | 国 | 移民流入数 2018年 (2000年) | 人口 2018年 | 移民流入数 / 人口 |
---|---|---|---|---|
1位 | ドイツ | 138万人 (65万人) | 83百万人 | 1.66% |
2位 | アメリカ | 110万人 (84万人) | 327百万人 | 0.34% |
3位 | スペイン | 56万人 (33万人) | 47百万人 | 1.19% |
4位 | 日本 | 52万人 (35万人) | 126百万人 | 0.41% |
5位 | 韓国 | 50万人 (17万人) | 52百万人 | 0.96% |
移民受入れ国としては、何となくアメリカが世界1位かと思っていましたが、2013年から逆転してドイツがトップです。
また上記の通りOECDのデータ(定義)によると、絶対数で日本は世界4位という結果でした。
人口が異なるので、外国人の移民受入れ数だけで比較するものでは無いかと思いますが、しかし人口に対する割合で、日本はアメリカを抜いていたのは意外です。
移民のスタートアップ起業率が高い3つの理由
ドイツ復興金融公庫(KfW)が2020年11月12日に発表したレポート”Wieder mehr migrantische Gründungen“によると、2019年には605,000のスタートアップが、内160,000が移民の背景を有する創業者により起業されました。
2018年と比較すると、5%伸びて2019年は26%に。前年度の伸び率は3%でした。
2011-2017年が21%程度で推移していた事を鑑みると、移民の背景を有する創業者による起業は、少なからずドイツ経済に重要な役割を果たしていると言えます。
同レポートによると、移民の背景を有する創業者による起業がなぜ多いのか、3つの理由が挙げられています。
- 就労機会がドイツ人より少ない
- よりリスクを取る傾向がある
- 身近にロールモデルがある
就労機会については、ドイツ連邦統計局のデータでも明らかで、移民の背景を持たない人は、あらゆる職種(唯一、清掃業を除く)において移民の背景を持つ人より、就業率が高い現実があります。
就労機会が少ないからリスクを取らざるを得ないのか、移民として革新的な精神や成長機会への追求さを兼ね揃えている事が、結果として起業というリスクを取っているのか、その両方かもしれません。
また家族や知人など、身近に参考となるモデルがあれば、何をするにも障壁が下がるのは分かる気がします。
Gründungen sind wichtig für die Erneuerungskraft und somit für die Zukunftsfähigkeit einer Volkswirtschaft. Deutschland profitiert deshalb seit vielen Jahren von der höheren Bereitschaft von Migrantinnen und Migranten, sich selbständig zu machen.
引用元リンク:https://www.kfw.de/KfW-Konzern/Newsroom/Aktuelles/Pressemitteilungen-Details_617024.html
しばし移民問題で騒がれるドイツですが、肯定的に捉えている側面も垣間見えます。
移民の背景を有する、花形のスタートアップ
冒頭で触れた、移民の背景を有するドイツ発のスタートアップについて、創業者の出身国を見てみたいと思います。
N26
N26は、2013年に設立されたベルリンに拠点を置く、ネオバンクです。
創業者のValentin Stalf氏とMaximilian Tayenthal氏は、どちらもオーストリア生まれです。
デリバリーヒーロー
デリバリーヒーロー(Delivery Hero SE)は、2011年に設立されたベルリンに拠点を置く、フードデリバリー事業を展開する多国籍企業です。
創業者Niklas Östberg氏はスウェーデン、Kolja Hebenstreit氏はドイツ、Lukasz Gadowski氏はポーランド、Markus Fuhrmannはオーストリア生まれです。
日本では2020年5月に、フードパンダのブランドでサービスを開始しています。
ビオンテック
ビオンテック(BioNTech SE)は2008年に設立されたマインツに拠点を置く、バイオテクノロジー企業です。
“Biopharmaceutical New Technologies”が由来ですが、なぜ「バイオ」では無く「ビオ」なのかは、ドイツ語読みだからですね。
米ファイザーと共同開発した新型コロナウイルスワクチンで、世界的な注目を集めているかと思います。
独ビオンテックはトルコ生まれのUgur Sahin氏と、ドイツ生まれで両親がトルコ系移民のÖzlem Türeci氏夫妻により設立されました。
最後に
最後にドイツのスタートアップで、移民の背景を有する創業者が多い3つの理由を、もう一度記しておきます。
- 就労機会がドイツ人より少ない
- よりリスクを取る傾向がある
- 身近にロールモデルがある
ドイツ東部の都市ケムニッツでは2018年、複数の移民によりドイツ人男性が刺殺されたとされる事件が発生。これを受けて、極右勢力による暴力的な抗議行動が行われ、深刻な分断が表面化した経緯があります。
ドイツが移民大国であるからこそ、移民特有の悩みだったり情報格差を解消するサービス、そこから派生して新しい事業が生まれる側面も大いにありそうです。
なおドイツ在住の外国籍割合上位3か国は、トルコ(13.1%)、ポーランド(7.7%)、シリア(7.0%)です。
※本文は以上です。
もし記事を気に入っていただけたら、是非、SNS等でシェアいただけたらと思います!
記事一覧は、サイトマップから確認できます。